第十八話 幼き居眠り少女と小悪魔少女。そして………え?モロ?(前編)
サイド:四季
やあ、こんにちわ。なんかだいぶ久しぶりだが俺のことを覚えている人はいるだろうか?
居酒屋『トビウオ』の跡取り息子、篠宮四季だ。
現在俺は一人で河原の側の道を歩いている。
なぜかって?それは…、
「あ〜、暇だ」
物凄く暇だからである。
今日は日曜日。普段ならファミリーの皆と一緒にチャンバラやサッカーなんかして遊ぶのだが、今日は皆に予定が入っていて、都合がつく相手がいなかったのだ。
モモさんとワン子は川神院の皆と合宿に、キャップは久しぶりに帰ってきた父親と共に日帰りで旅行に行っているらしく、大和は両親と買い物に出かけている。
忠勝は父親の仕事の手伝い。ガクトは母親である麗子さんにテストで0点をとったことがばれ、見張りつきでドリルをやらされているらしい。モロは1ヶ月前から楽しみにしていたゲームを買うために行列に並んでくるらしい。元気なことだ。
そして我が妹である小雪。こいつには予定がないはずなのだが、昨日徹夜でゲームをやっていたらしく、揺すっても起きなかった。
それで無理やり起こすのも可哀想なので、俺はこうして一人寂しく散歩にでているというわけである。
なにか面白そうなことないかな〜と探していたのだが、そう都合よく見つかるはずもなく、もう家に帰って俺もシエスタ(スペイン語で昼寝)としゃれこもうかなと考えていたその時、土手の草むらに誰かが横たわっていることに気づいた。
近づいてみるとそこにいたのは、青い髪の女の子だった。
「…zzZZZ」
顔立ちの整った美少女といってもいいその子は、いびきをかきながら幸せそうに爆睡している。
「………ハッ!」
しまった。俺としたことがあまりにも幸せそうに寝てるから思わず見とれちまった。
やるわい、こやつ…(ゴクリ。
…そんな一人芝居にも飽きた俺は、風邪をひいてらいけないので、その女の子を起こすことに決めた。
「おい、起きろ」
俺は呼びかけながらその少女の体を揺するが、いっこうに起きる気配を見せない。もう少し強く揺すってみる。
すると、さすがに気づいたのか、少女は眉間にしわを寄せながら、ゆっくりと目を開く。
「ん〜…あれ〜?君だれ〜?」
なんかのんびりしたやつだな。寝起きだからか?そう思いながら自己紹介する。
「俺の名前は篠宮四季。四季って呼んでくれ。おまえさんは?」
「私?私は板垣いたがき辰子たつこっていうんだ〜。よろしくね〜」
…どうやら辰子ののんびりした口調は素らしいな。
俺は、気をとりなおして辰子に尋ねる。
「ところで辰子。お前なんでこんなとこで寝てたんだ?いくら今日が暖かいからって、風邪ひくぞ?」
ちなみに今日の天気予報によると、今日一日中穏やかで過ごしやすい気候が続くそうな。結構なことだ。
辰子は俺の疑問に、「え〜っと〜」と考える仕草をとりながら口を開いた。
「確か、天ちゃんと公園で遊んでて、あっ!天ちゃんていうのは私の妹なんだけど、少し目をはなしているうちにいなくな……あー!?」
「うぉ!?ど、どうした?」
「天ちゃんとはぐれて、それで探してたんだけど、疲れて休憩してたんだった〜!」
辰子はそう言うやいなや、勢いよく立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「どこって天ちゃんを探しに行くんだよ〜?天ちゃん寂しがりだから泣いちゃうかもしれないし」
なるほど、のんびりしてるように見えて、いいお姉ちゃんしてんな辰子のやつ。……よし!
俺は立ち上がると、辰子にむかって口を開く。
「俺も一緒に探してやるよ。ここらへんの道は大体わかるからな」
主にファミリーの探検ごっことかで。
辰子はそんな俺を見て、驚いた表情を浮かべている。
「いいの〜?」
「構わないよ。どうせ暇だったし。なによりこのまま見過ごしたら後味わるいしな」
俺のその言葉に、辰子は優しく微笑む。
「やさしいね、四季君は」
その笑みはとても可愛らしく、思わず照れてしまいそうになった俺は、ごまかすように声を荒げてしまう。
「バ、バッカヤロー!?そんなんじゃねえよ!」
「え〜、そうかな〜?」
「えーい、さっさと行くぞ!」
そう言って、俺は辰子を置いて歩きだす。
後ろで辰子が「待ってよ〜」と言ってるのを無視しながら。
くそ、顔が熱いぜ。
サイド:???
うちの名前は『板垣いたがき天使えんじぇる』。
母ちゃんは、うちに天使みたいにいい子になってほしいと死んだ父ちゃんと一緒になってつけたと言っているけど、はっきり言って、私はこの名前がだいっきらいだ。
この名前のせいで、クラスの皆に笑われてうちはいつもイジワルされる。
今やられているように…。
「やーい、えんじぇるー」
「こっちむけよえんじぇるよぉ」
「あははは!エンジェルとか変な名前ー」
今日、うちは辰姉と一緒に公園に遊びに来てたんだけど、いつのまにか辰姉がどこかにいっちまったんだ。
トイレかなと思って公園のトイレを探してみても辰姉はいなかった。
寂しくなったうちは、必死で辰姉を探したんだけど、見つかったのは辰姉じゃなくて、目の前のこいつらだった。
こいつらは、小学校のうちのクラスメイトで、いっつもうちの名前をバカにするやつらなんだ。
今うちは、そいつらにいろいろ悪口を言われてるけど必死で我慢している。
本当はいますぐにでもぶん殴りたいけど、必死に我慢している。
目の前のこいつらには女のうちじゃ勝てないというのもあるけど、理由は別にある。それはうちの母ちゃんにあった。
うちの母ちゃんの『板垣いたがき香織かおり』は、父ちゃんが死んでから女手一つで必死に私たち兄弟を育ててくれた。
母ちゃんは、腕っ節がとても強く、そこらの男じゃ手も足もでないほどに。そんな母ちゃんが危険な仕事で一生懸命働いてるから、うちたちは普通の子供と同じく学校に通えている。そんなうちたちが問題な行動をして、母ちゃんに苦労をかけちゃいけないって、亜美あみ姉たちと約束したんだ。
だからうちは必死に耐える。こいつらが飽きてどこかに行くまで。
でも、そううまくはいかなかった。
なにを言っても黙ってるうちにイラついたのか、男子の一人が落ちている石を拾うと、
「なんとか言えよ!」
うちにむかって投げつけてきた。
「いたっ!?」
その石はうちの頭に当たる。
あまりの痛さにうちはその場にうずくまる。
「う…うぅ……」
あまりの痛さに目から涙が出てきた。
そんなうちを見て、指を指して笑う男子たち。
「あははは、こいつ泣いてやがるぜ?」
「うわっ、だっさ!」
「あははははは!」
あまりの悔しさに、さらに涙が溢れる。
なんでうちばっかりこんな目に……。
誰かうちを助けてよぉ…。
そう思ってると、突然どこからか、声が聞こえてきた。
「なにやってるんだ、お前ら!」
その声の聞こえたほうに顔をむけると、そこにいたのは女みたいな顔をした、小柄な男子。
その男子は、物凄い形相でうちをイジメてた男子を睨むと、口を開いた。
「それ以上その子に手をだすと、僕が許さないぞ!」
これが、うち、板垣天使と、モロこと師岡もろおか卓也たくやとの出会いだった。