小説『あぁ神様、お願いします』
作者:猫毛布()

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「ん……」
「あ」

私が取ろうとしていた本が先に取られた。
手を辿れば瓶底眼鏡と少しぼさぼさした黒髪の少年。

「あー……なんだ、車椅子少女。この本が読みたかったのか?」
「…別にいいです」
「そうかい」

なんだろう、私の印象は確かに車椅子少女だが、初対面で言われるのはどうかと思う。

「ふむ……まぁいいか」
「戻すんやったら貸してください」
「読まないんだろ?」
「……性格が悪いって言われません?」
「少なくとも生まれて今まで性格がいいとは言われなかったよ」

やっぱり、と心の中で納得し少年を見る。
少年は少年で私を見てふと視線を落とした。

「……なにか?」
「童話集……王子様でも求めてるのか?」
「余計なお世話です」
「それは失礼、レディ」

演技掛かった礼をされ余計に頭にくる。

「なんやねん…」
「なんやねんと問われれば、応えてあげるが世の情け」
「情けならいらん」
「では、世の摂理で」
「……ひねくれとるなぁ」
「お褒めいただき恐悦至極。では疑問に応えましょう
ワタクシ、姓を御影、名を夕。以後、見苦しき面体。お見知りおかれまして、恐惶。万端ひきたって宜しくお頼み申します」
「あんなぁ、その口上を分かる私もオカシイねんけど。普通は子供に向かってせぇへんよ?」
「マジでか」
「マジや」

御影と名乗った少年は数秒頭を抱えてから、なにか納得したように口を開く。

「…いいか」
「ええんかい!」
「いや、だって今会話をしてるのは俺とお前で、お前は分かったんだろ?」
「まぁそやけど」
「なら上々にして十全。なんら問題はないさ」

そうなんか?いやそうである訳がない。変に丸め込まれそうや。

「…………」
「……何か?」
「いや、勝手に名乗った、というか問われたから名乗ったんだが。人の名を尋ねたのだがら自身の名を名乗ったらどうだ?あれか、名前はまだない的な猫なのか」
「八神はやてや。名前はある」
「うん。よろしい」

先ほど戻した本をもう一度本棚から抜いて私の膝に置かれた。

「いらんって言うたけど?」
「性格悪いから仕方ないだろ?」
「……まぁええわ」
「ならよかった。アッチの方が日当たりいいから移動しようぜ」
「自由やなぁ」
「自由は束縛されてる証拠さ」


そう言いながら御影君は私の横を歩いている。車椅子を押すこともせず、先に行くわけもなく。

「押さへんの?」
「?押してほしいのか?」
「…別にええけど」
「なら自分で頑張れ。無理なら手伝うさ」

押し付けがましい好意もなく、ただ単にそれが普通のように横にいる御影君。
微妙な距離感を保ち、楽しそうに笑っている。

「何がそんなに面白いん?」
「面白いだろ。相手の言葉に感情をぶつけるんじゃなくて、しっかり返ってくるならなおさらだ」
「…そうなんかなぁ」
「そうに決まってる」
「…僧に決まってるなんて、随分厳格な人間やねんな」
「早期に決めすぎたか…幻覚な人なんて夢見がちな少女と大きなお友達だけで十分だ」

なるほど、ちょっと楽しいかもしらん。












「と、友人関係になった訳やん」
「まぁ確かそんな感じだな」
「そこでさ、一個だけ聴きたいことがあったんよ」
「なんだ?」
「私が本を取りに来た段階で夕君の姿は無かった、つまり夕君は私の後に来たことになる」
「……ふむ、続けてくれ」
「車椅子の美少女が居るのに、声も掛けずに別の本を取る鬼畜さんやったの?」
「あー……怒らない?」
「もう昔の事やし、怒ってもしゃぁないやん」
「なら種明かし。



車椅子に乗る美少女が必死に手を伸ばしてる姿に萌えてました。
取ろうとしてた本はお前が持ってた本から推測して、頼られるまで待ってたけど全くそういう事をしなかったから自分から行ってみた。
最初に『その本取りたかったんですぅ』みたいな事を言われてたら渡してバイバイしてたかな。まぁ見事に求めなかったけど…それが若干心配になって絡んだ結果だ」
「最後まで聞くとイイハナシダナーやのに最初で残念すぎる事になったな」
「まぁその辺りは気にするな。ところではやて様?」
「なんや?」
「怒らないんじゃなかったけ?」
「オコッテナイヨー、ナニユッテルーン」
「女神はやて様はそう言いながら憐れな男に裁きの鉄槌を」





―ギャアアアアアアァァァァァァ………


八神家周辺は今日も平和です。
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〜以後、見苦しき面体…
海外でいう日本の象徴だそうで。とある旅人?の口上。作者自身もあまり詳しく知らない。ツッコミは勘弁してくだせぇ


〜アトガキ
どうも猫毛布です。

スメラギ君が感想でフルボッコされてたので夕君もきっとフルボッコされるだろう…とか思いつつ、はやて様との出会いを書きました。

スメラギ君と夕君がはやてと出会ったシチュエーションは大体似通ってます。そういう風に作ったから仕方ないね!
やったね猫毛!感想が荒れるよ!
おい、止めてください。心も荒れます。


最後の二人の掛け合いは空白期終盤〜ぐらいで想像していただけると幸いです。

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