小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 「レベル4のロード・ポイズンに、レベル3の夜薔薇の騎士をチューニング!
  清廉なる花園に芽吹きし孤高の薔薇よ、青き月の雫を得て咲き誇れ!シンクロ召喚!現れよ『月華竜 ブラック・ローズ』!」
 『キョェェェェェェェェ!!』
 月華竜 ブラック・ローズ:ATK2400


 ライフポイントは残り100。
 アギトのフィールドにはトンでもない能力を持った大型モンスターが2体という絶体絶命の状況で目覚めたアキの新たな力。


 其れはアキのエースモンスター『ブラック・ローズ・ドラゴン』に酷似した月華竜。
 全体的なシルエットは同じだが、身体にはブラック・ローズ・ドラゴンには無かった紋様が浮かび上がり属性も異なる。

 「馬鹿な…こんなことが!」

 「ありえない事ではないでしょ?闘いの王国の時に、遊哉がヴァリアスとイズナを覚醒させたのと同じよ。」

 驚くアギトにアキも冷静に返す。
 このデュエルもいよいよクライマックスと言うところだ。











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel76
 『咲き誇れ月華竜!』











 アキ&鬼柳:LP100
 月華竜 ブラック・ローズ:ATK2400
 煉獄神 ナハトヴァール:ATK3000


 アギト:LP2500
 存在しえぬ神−ノーバディ:ATK5000
 不明存在−ファントム:ATK4000


 新たに覚醒したその力は、アキのサイコパワーと呼応し部屋全体を震わせる。
 攻撃力こそ2400だが、その存在感はすさまじいものが有る。


 「土壇場で新たな力に覚醒するとは…やるなアキ。」

 「諦めない心が、この子を呼び覚ましたのかもしれないわ。」

 手を伸ばし、己のサイコパワーの影響で実体化している月華竜に触れ、撫でる。
 月華竜も其れに気持ちよさそうに喉を鳴らしている――まるで本物の生き物のように。


 「く…だが、攻撃力は所詮2400!神の攻撃力の半分にも満たないぞ!」

 そんなアキ達とは逆に、アギトは苛立ちを隠さずに叫ぶ。
 自分が絶対有利な状況においての新たな力の覚醒。
 攻撃力では劣るものの、其れはアギトにとってなんとも思い出したくない記憶だ。
 幾ら操られているとは言え、記憶は消去されては居ない――つまり遊哉とのデュエルの記憶も残っている。

 闘いの王国に於いて、新たな龍皇2体を覚醒させた遊哉によってアギトはパーフェクト負けを喰らった。
 状況は違えど、新たな力の覚醒はアギトの脳内で警鐘が鳴るには充分すぎる事態だったのだ。


 其れを見てアキは溜息一つ。
 鬼柳に至っては呆れすぎて溜息すら出ないようだ。

 「コイツは…まるで満足できないな。」

 「えぇ、本当に。」

 鬼柳のテンションが元に戻ったのが何よりの証拠。
 アギトは、最早満足に足りる相手ではないようだ。


 「確かに月華竜の攻撃力では貴方のモンスターには遠く及ばないけど――その目で見ると良いわ、月華竜の力を!
  マジックカード『アンブレイカブル・ブラックローズ』を発動、私の墓地の『ブラック・ローズ・ドラゴン』を特殊召喚する。
  冥界より蘇り、月華竜と共に咲き誇れ!現れよ『ブラック・ローズ・ドラゴン』!」
 『ショォォォォォォォ!!』
 ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400


 月華竜の力を発揮する為の下準備なのだろう、先ずはブラック・ローズ・ドラゴンを墓地より呼び戻す。

 「この効果で特殊召喚したブラック・ローズ・ドラゴンの攻撃力は800ポイントアップするわ。
  ただし、この効果で特殊召喚したブラック・ローズ・ドラゴンはこのターン攻撃できないけれどね。」
 『ショアァァァァァ…!』
 ブラック・ローズ・ドラゴン:ATK2400→3200


 そして蘇生するだけではなくステータスの強化も行われる。
 しかし、それでもまだアギトのモンスターには及ばない。

 いや、及ばない所かノーバディの前には如何に攻撃力が高いモンスターだろうとも無力と化すのだ。

 「攻撃力3200のブラック・ローズ・ドラゴン……ふ、其れが如何した!
  ノーバディの攻撃力は5000!更に攻撃力が1万だろうともノーバディはその攻撃力を常に1000ポイント凌駕する!
  お前達のモンスターでは到底太刀打ちなど出来ない最強のモンスターだぞ!」

 アギトもその効果が有る故に吠える。
 ノーバディのみならずファントムまで揃ったフィールドは確かに強力無比。
 如何に攻撃力を上げようとも太刀打ちできないのだ。

 「最強モンスター…其れは如何かしら?」

 だが怯まない。
 本よりアキの目的は別に有るのだ。
 ブラック・ローズの蘇生はあくまでもトリガーに過ぎない。


 そう、月華竜の力を発揮する為の。


 「月華竜の効果発動!1ターンに1度、私がモンスターを特殊召喚した場合、フィールド上のカード1枚を持ち主の手札に戻すわ。」

 「なにぃ!?」

 「戦闘では倒せず、効果では破壊も除外もされない不死のモンスター『ノーバディ』…その弱点の一つがバウンス。
  デッキや手札に戻るバウンスは破壊でも除外でもないのでノーバディの効果も適応されないわ!
  存在しえぬ神には御退場願うわ…奏でよ月華竜!『退華の叙事歌(ローズ・バラード)』!」

 月華竜が巻き起こした強烈な烈風がノーバディを包み込み、その存在をアギトの手札に戻す。
 モンスターの特殊召喚をトリガーに発動するモンスターのバウンス効果。
 此れを発動するために、アキは墓地よりブラック・ローズを特殊召喚したのだ。


 「き、貴様!!だが、ファントムの攻撃力は4000!お前達のモンスターでは太刀打ちできないぞ!」

 ノーバディを攻略されてもまだファントムが居る。
 その力をもってして優位に立つ心算だろうが、そうはいかない。

 「攻撃力4000を従えて満足か?…甘いな。見せてやれアキ!!」

 「えぇ、このターンで終わらせるわ。リバースカードオープン!」

 だが、最強とも言えるノーバディを攻略したアキには何事も無意味。
 終幕を宣言し、最後の1枚のカードを発動する。

 「トラップカード『茨の封縛樹』!私の墓地の『ローズ』と名の付くモンスターを除外し、
  相手モンスターの攻撃力を除外したモンスターの攻撃力分ダウンさせ、私の場のモンスター1体の攻撃力を1000ポイントアップする!
  私は墓地の『魔天使−ローズ・ヴァルキリー』を除外しファントムの攻撃力を3200ポイントダウンさせる。
  更に月華竜の攻撃力を1000ポイントアップするわ!」

 「なっ!!こんな馬鹿な…!!」


 不明存在−ファントム:ATK4000→800
 月華竜 ブラック・ローズ:ATK2400→3400


 逆転した攻撃力。
 アギトの場には弱体化したファントム以外のカードは無い。
 この攻撃に対抗する手段も……存在しない。

 「ラストバトル!月華竜 ブラック・ローズで、不明存在−ファントムに攻撃!鳴り響け…『散華の鎮魂歌(ローズ・レクイエム)』!」
 『キョォォォォォォォ!!!』


 咆哮と共に月華竜の身体が輝きを放ち、その光がファントムの溶岩で出来た巨躯を崩して行く。



 ――ジュォォォォォォ…!



 「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
 アギト:LP2500→0


 凄まじい蒸発音と共にファントムが消滅し、アギトのライフも焼き尽くされた。
 土壇場で新たな力が覚醒したアキの一撃での逆転勝利。

 「此れで、闘いの王国の時のリベンジはさせてもらったわよアギト。」

 アキにとっては闘いの王国の時の敗北を清算した事にもなる。
 しかも闇に気圧された前回とは違い、今回は闇を押し返しての勝利。

 ギリギリからの逆転勝利だが、其れを踏まえれば『完全勝利』と言っても過言ではないだろう。



 ――ゴゴゴゴゴゴ…



 更に、部屋の奥の壁の一部が動き新たな道が姿を現す。
 恐らくアギトのライフと連動し、0になると開く仕組みだったのだろう。

 「どうやら先に進めるみたいだな。…此処に長居は無用だ、行くか。」

 「えぇ、先に進みましょう。」

 デュエルに勝利し、先に進めるとなればこの場に長居は無用。
 アキも鬼柳も先に進もうとDホイールを起動するが、


 「あ…あ…あがぁぁぁぁぁ!!!!」

 「「!?」」

 突然アギトが苦しみ始めた。


 いや、苦しんでいるだけではない。
 その身をどす黒い瘴気が覆い、締め付けている。

 「一体何が起きてるんだ?」

 「其れにこの瘴気は…!」

 驚く2人を尻目に、瘴気は益々濃くなりアギトを覆い尽くす。

 「あ…あぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ――バシュゥゥゥ!!


 その瘴気の中で断末魔の如き叫びを上げると共に、アギトの身体から一筋の光が一瞬表れ消える。
 同時に瘴気も消え――アギトの姿も消えていた。

 「此れは……」

 「まさか負けたら闇の瘴気に飲まれて消えるってのか……冗談じゃないぜ…」

 敗北=消滅など確かに冗談では無い。
 だが、だからと言って先に進まないわけにも行かない。


 「けど、行くしかないわ。」

 「あぁ、此処で尻込みしてたら満足できないし、あいつ等なら大丈夫だろうからな。」

 仲間の無事を信じ、先に進む。



 アキと鬼柳が去って暫くすると、部屋と通路を繋ぐ扉が閉まり戻る事ができなくなった。
 いや、それどころか…



 ――ズゥゥゥン…



 部屋そのものが崩れ落ちて消滅したのだった。








 ――――――








 神殿の最上部の玉座で、雪花は目の前に現れたクリスタルの柱を眺めていた。
 その柱の中には、先程までデュエルしていたアギトの姿が…!!

 「操り人形にしては上々の働きね……まぁ、お前の魂も精々有効利用してあげるわ。」

 更に手にしたカードにもアギトの姿が!

 先程の光――アレはアギトの魂だったのだ。
 闇の瘴気で包んで魂を抜き取りカードに封印したのだろう。

 「それでも、デュエリストである以上は中々の魂ね……いい糧になるわ、『私』が再び顕現するためのね…」

 瞬間、雪花から闇の瘴気が現れ部屋を覆い尽くす。

 「さぁ、デュエルでその魂の価値を高めなさい!そのデュエルで発生するエネルギーと昂ぶった魂こそが私の求めるもの!
  チーム遊戯王、お前達が全員此処に辿り着いた時こそが目的が成就する時…うふふ…待っているわ。」

 雪花の背後には、前よりもはっきりと黒いローブを纏った山羊の骸骨が現れ、そして闇に溶け込んでいった…

















   To Be Continued… 






 *登場カード補足



 アブレイカブル・ブラックローズ
 通常魔法
 自分の墓地の「ブラック・ローズ・ドラゴン」1体を選択し自分フィールド上に特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚された「ブラック・ローズ・ドラゴン」の攻撃力は800ポイントアップし、このターンは攻撃できない。



 茨の封縛樹
 通常罠
 自分フィールド上のモンスター1体と相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動する。
 自分の墓地の「ローズ」と名の付くモンスターをゲームから除外する。
 選択した相手モンスターの攻撃力を除外したモンスターの攻撃力分ダウンさせ、
 選択した自分フィールド上のモンスターの攻撃力を1000ポイントアップする。



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