小説『遊戯王 New Generation』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 余りにも非道かつ外道なフレディの一言。
 其れを聞いて本気で『キレた』霧恵。

 勿論シェリーだってフレディの非道さには腸が煮えくり返る思いだ。
 騎士道を重んじる彼女にとって、人を捨て駒の様に扱うなどは許せるものではない。

 だが、そのシェリーをして隣の霧恵から発せられる『冷たい怒気』には背筋が凍る思いだ。
 決して声を荒げたりする訳ではないが、其れが逆に怖い。

 「覚悟は出来てる?敗北の冥府への片道切符は用意できているわ…」

 「ぬわぁんだ、このプレッシュワァ〜はぁ!?」

 フレディもまた余りの怒気と、その怒気の冷たさに驚く。
 同時に『若しかして地雷を踏んだか?』との思考が脳内を駆け巡っている。

 が、もう遅い。
 霧恵の怒りは最高潮に達しているのだ――デュエルが終わるまでは静まる事はない。

 そしてこのターンが、このデュエルのラストターンとなるだろう。











 遊戯王デュエルモンスターズ New Generation Duel80
 『非道野郎に裁きを!』











 霧恵&シェリー:LP4200

 フレディ:LP3400
 魔帝・ムンドゥス2nd:ATK7400



 「アタシの……ターン!」

 何時もよりも鋭くカードをドローする。
 それこそドローの勢いで風切り音がするほどに。

 「!?」
 ――幻覚?…今のドローはまるで剣を鞘から抜いたようだったわ…


 シェリーもその鋭いドローに、霧恵が抜刀したような錯覚を覚える。
 それだけ霧恵の気持ちが昂ぶっている証拠だ。


 ――其れで居ながら怒りで暴走はせずに冷静そのもの…
    遊哉を燃え盛る『炎』とするなら、霧恵はまるで凍てつく『氷』と言った所ね…
 「霧恵。」

 「なに、シェリー?」

 「一切の加減は不要よ、思い切りやってしまいなさい?」

 「勿論その心算よ。」

 シェリーの言葉に答え、霧恵はフレディを睨みつける。
 その迫力たるや、とても18歳とは思えない。

 「こぉ娘ぇ…い、否きぃさむわぁ、一体ぬわぁにものどぅぁ!?」

 「迦神霧恵、只のデュエリストよ。…そう、光と闇の双極の力を宿しただけのデュエリストよ…!」

 「ぬわんだとぅおぉ!?」

 瞬間、怒気に混じってデュエリストの闘気が今まで以上に激しく溢れ出す。
 だが、其れは遊哉が持つ燃え盛る闘気とも、遊星の持つ静かな闘気とも違う。

 いや、この世界のデュエリストの誰とも違う闘気。
 アリオスから受け継いだ光の力と、ヘカーテから受け継いだ闇の力の双極を宿した霧恵だけの力だ。

 「覚悟は良いわね、フレディ・ゴーン?このターンで終わらせるわ!
  アタシは墓地の『星砕く魔導師』を除外して、チューナーモンスター『夜天の魔導主』を特殊召喚!」
 『ん、ほな行こか?』
 夜天の魔導主:ATK500


 その力を迸らせながら終焉を宣言し、その下準備。
 先ず呼び出すはチューナーだ。

 「『夜天の魔導主』は墓地の魔法使い族を除外する事で特殊召喚出来るわ。
  そして、特殊召喚に成功した時に自分フィールド場にこのカード以外のモンスターが存在しない場合、
  墓地の魔法使い族のシンクロモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚出来る!
  アタシはこの効果で墓地の『聖火霊魔導師−ヒータ』を墓地から呼び戻す!戻ってきてヒータ!」

 『お呼びやで、炎のお姉さん♪』

 『おう、やってやるぜ!!』
 聖火霊魔導師−ヒータ:ATK2700(効果無効)


 更にそのチューナーの効果で墓地よりヒータを呼び戻す。
 チューナーと霊魔導師を揃え、しかしマダ通常召喚権は残っている。

 「更に『祝福の魔導騎』を通常召喚!」
 『共に参りましょう、我が主。』
 祝福の魔導騎:ATK1500


 『せやな。終わりにするで祝福!』


 2体目のチューナーを呼び出す。

 「『祝福の魔導騎』の効果で墓地の『蒼雷の魔導戦士』を特殊召喚!」
 『ん?僕と行くかい?』
 蒼雷の魔導剣士:ATK1700


 がら空きだったフィールドが一気に4体のモンスターで埋め尽くされる。
 ムンドゥス2ndには攻撃力が及ばないが、シンクロモンスターにチューナーが2体という状況だ。

 「この布陣は…今回はヒータね?」

 「その通り。砕けぬ我が魂『ダイヤモンドソウル』!!」

 そして其れは霧恵の最強の戦術の布陣。
 砕け得ぬ魂が、ヒータを新たなステージへ昇華させんと輝きを放つ。

 「レベル8の聖火霊魔導師−ヒータに、レベル1の夜天の魔導主とレベル3の祝福の魔導騎をダブルチューニング!!
  光と闇が焔と交わり、魔導の力を昇華する。砕け得ぬ轟炎よ、我が前の敵を払え!シンクロ召喚、滾る炎『聖獄炎霊魔導師−ヒータ・ヘラルド』!」
 『こんなフォールド魔法の炎よりも、アタシの炎の方がずっと熱いぜ!!』
 聖獄炎霊魔導師−ヒータ・ヘラルド:ATK3400


 現れたのは黒と白の炎を迸らせたヒータの新たな姿。
 正邪を併せ持った炎はフィールド魔法『魔帝空間−獄炎』の炎をも飲み込む勢いだ。

 「ヒータ・ヘラルドの攻撃力はアタシの墓地の魔法使い1体につき攻撃力が300ポイントアップする。
  アタシの墓地に存在する魔法使いは10体、よって攻撃力は3000ポイントアップ!!」
 『アタシの炎は仲間の魂で強くなる!!』
 聖獄炎霊魔導師−ヒータ・ヘラルド:ATK3400→6400


 「ぶわぁかなぁ!たった1ターンで攻撃力6700どぅぁとぅぉ!?
  どぅあがぁ、私の魔帝にはぁ1000ポイントほど足りないようどぅなあぁ?」

 一気にパワーアップしたとは言え攻撃力はまだ及ばない。
 フレディも其の差が有ると、驚きながらも余裕だ。

 「あんな事言っているわよ?」

 「言わせておけば良いんじゃない?この残り2枚の手札で攻略完了なんだから。」

 「ぬぁぬぃ?」

 其の余裕の上を行く霧恵の余裕。
 シェリーも霧恵を信用し全然慌てていない。

 「まぁ、実質は1枚かな?其れがこのカード!マジックカード『トリック・シャッフル』!
  手札の魔法使いを捨て、デッキと墓地から1体ずつ魔法使いを効果を無効にし、攻撃力を半分にして特殊召喚する!
  アタシは手札の『闇総べる魔導王』を捨て、デッキから『不屈の魔導少女』を、墓地から『聖水霊魔導師−エリア』を特殊召喚するわ!」
 『行きましょう、エリアさん!』
 不屈の魔導少女:ATK200→100


 『そうだね、全力全壊で!』
 聖水霊魔導師−エリア:ATK2500→1250


 完全攻略を宣言し、再びシンクロモンスターにチューナー2体を揃える。
 出し惜しみなしの全力という奴だ。

 「これはぁ!ままま、まぁさくぁ!?」

 「もう1度?遊哉の影響かしら?」

 「かもね。アイツの影響力は強いから。
  行くわよ!レベル8の聖水霊魔導師−エリアに、レベル1の不屈の魔導少女とレベル3の蒼雷の魔導戦士をダブルチューニング!
  大いなる魔導と優しき心が今此処に交わる。砕け得ぬ魂よ、無限の力を我が前に示せ!シンクロ召喚、清き流れ『神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ』!」
 『さぁ、終わりにするよ!』
 神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ:ATK3200


 2度目のダブルチューニング。
 光と闇の力を宿した、水の霊魔導師と炎の霊魔導師のそろい踏み。
 霧恵のデッキの2トップが最強状態でお目見えだ。

 「エリア・ヘカーテの攻撃力はアタシの墓地の魔法使いチューナー1体につき700ポイントアップする。
  アタシの墓地の魔法使いチューナーは7体――4900ポイント攻撃力がアップするわ!」
 『皆の力を借りるよ!』
 神水霊魔導師−エリア・ヘカーテ:ATK3200→8200


 「そして墓地の魔法使いが2体増えた事でヒータ・ヘラルドの攻撃力は600ポイントアップ!
  更に、ヒータ・ヘラルドは魔法カードが発動したターンのエンドフェイズまで攻撃力が1000ポイントアップする!」
 『テメェ…覚悟は出来てるよなぁ!?』
 聖獄炎霊魔導師−ヒータ・ヘラルド:ATK6400→7000→8000


 「ばばば、バァカぬぁぁあ!?くぉんな事が、有るというのくぁぁ!?」

 正に限界突破の全力。
 魔帝を上回った2体の霊魔導師。

 「霊魔導師の絆とアタシの魂は絶対砕けない!終わりよフレディ!!」

 「終幕は派手に行きましょうか?」

 「It's so!バトル!!聖獄炎霊魔導師−ヒータ・ヘラルドで、魔帝・ムンドゥス2ndに攻撃!『轟炎のソウル・ブレイザー』!」
 『大人しく…燃え尽きろぉぉぉぉぉ!!!』


 双極の力を宿した炎が魔帝を打ち貫き、其の巨体を焼き尽くす。
 溶岩の中に立つ魔帝を焼き尽くすとは、ヒータの炎は進化の果てに溶岩すら凌駕したのだ。

 「ぶるぁぁぁあ!!ば、馬鹿な…魔帝が一撃どぅぇぇ!」
 フレディ:LP3400→2800


 「更にヒータ・ヘラルドが攻撃した場合、ダメージ計算後に相手に700ポイントのダメージを与える!」

 「ぬあぁぬうぃぃぃ!?」
 フレディ:LP2800→2100


 超攻撃的効果で更にライフを削る。
 だが、其れは今の状況ではおまけに過ぎない。

 魔帝の焼滅によりフレディを護るものは何もない。
 『魔帝空間−獄炎』の効果では魔帝は復活できない。

 「アンタの敗北理由はとても簡単でシンプルよ?…アンタはアタシを怒らせた。
  ラストバトル!神水霊魔導師−エリア・ヘカーテでフレディにダイレクトアタック!押し流せ『激流のダイヤモンド・スプラッシュ』!!」
 『冷水で…頭を冷やしてきなさ〜〜い!!』



 ――ドシャァァァ!!!



 激流がフレディを襲い、其れのみならず獄炎の溶岩をも巻き込み炎を消し去る。
 そして、獄炎の炎が消えると同時にフレディのライフも消え去る。


 「ぶるぁぁぁぁ!!く…こぉの私ぐあぁ、負けるとわぁ…」
 フレディ:LP1800→0



 決着。
 フレディの余計な一言で怒りが臨界点を突破した霧恵の怒涛の猛攻で完全勝利。

 「見事なものね?」

 「如何に操ってたとは言え、仲間を捨て駒にするなんて絶対に許せないから。」

 「其れは私もよ。」

 矢張り許せなかったのだ。
 人を捨て駒に使う……其れは何があろうとも許されるものではない。

 「行こうシェリー。もう此処に用は無いよ。」

 「そうね…先に進みましょう。」

 デュエルに勝利し先に進むことが出来る以上長居は無用。
 2人とも先に進もうとするが…

 「むわぁてぇい…」

 其れをフレディが呼び止める。

 「なに?デュエルには勝ったわよ?」

 「まだ何か用が有るのかしら?」

 「ふっふっふぅ…い〜い事を教えてやろう!このデュエル、わ〜たしが勝とうが負けようが如何でもいいのどぅあ!」

 「「!?」」

 其のフレディが放った一言。
 勝敗は関係ないとは一体どういうことだろうか?

 「こ〜のデュエルで必要なのうぁ、デュエリストのエナジー!もぉちろん、敗北者は只では済まんぐあぁなあ?」

 「え?」
 「此れは…!」

 説明を続けるフレディの体がドンドン消えてイク。
 アギトと同じような状態だ。

 違いはこの状態でもフレディに恐れはまるで無い。
 それどころか、『これでもまるで構わん』と言った具合だ。

 「すわらぬぃもう1つ良い事を教えてやろう。き〜様等がこの部屋を出た瞬間に部屋は崩れ後戻りはできなくぬぁる。
  せ〜いぜい頑張って先に進むが良い、そのさきぬぃわぁ究極の絶望が待っているはづどぅからぬぁ!
  ムハハハハ、フアァッハッハッハッハ、ムァァァァッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 耳障りな笑い声と謎を残しフレディは消え去った。
 霧恵もシェリーも、余りな事態に、少し思考が追いついていないようだ。

 「霧恵…」

 「…先に進もう。どの道後戻りは出来ないんだから。」

 「えぇ、そうね。」

 だからと言って足踏みはしない。
 後戻りできなくても知った事ではない。

 今は前進有るのみだ。

 2人ともDホイールを起動し先に進む。
 そして、フレディの言ったとおりに、2人が部屋から先に進むと部屋は崩れ落ち通行が不能になるのだった…








 ――――――








 「あ、あぁ……フレディ…お前まで…」

 神殿玉座ではアギトに続き、フレディもクリスタルの柱に封印され、魂はカードに。
 だが、其れを前にした雪花の様子がおかしい。

 アギトの時のような邪悪さは無い。
 それどころか涙を流しながら、2つの水晶柱と2枚のカードを見ている。


 『くくく…此れがお前の望んだ事だ。お前の本質――絶望の果ての憎悪が生み出したものだ。』

 そして其の横には半透明状態の邪悪な雪花が。

 「違う!私はこんな事を望んだわけじゃない!私は…」

 『何が違う?自分に力を植えつけた者達を憎み、世界の不条理さに絶望した結果が此れだ。
  認めろ、この憎悪と絶望と狂気こそがお前の変わらぬ本質であり、引いては人間の本質だろう。
  もう暫く精神は入れ替わっていてやる…身体のコントロールは渡さないがな。
  まぁ、精々絶望を高めておけ、其れが私が再びこの世界に示現する為のエネルギーとなるのだからな。』

 邪悪な雪花はそのまま消える。
 消える其の一瞬に山羊の骸骨を浮かばせて…

 「違う…私は望んでない!私が望んだことはこんなものじゃない!此れが本当に私の望みだって言うなら私は…」















 ――トンでもない人でなしだ…



















   To Be Continued… 






 *登場カード補足



 トリック・シャッフル
 通常魔法
 手札の魔法使い族モンスター1体を捨てて発動する。
 デッキと墓地から魔法使い族モンスターを1体ずつ選択して自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になり、攻撃力は半分になる。


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