小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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2001年9月11日。父・真堂創一の長編小説作品『傲慢な掌』が、21世紀に入ってからアメリカで大ヒットをかざったのを理由に、海外に出張していた。

 その時、現地(ニューヨーク)での披露宴が終わった後で、アメリカに来ていた家族と一緒に、作品のヒットを再び祝おうとし、待ち合わせ場所に創一が指定してきた場所が『世界貿易センタービル』だった。

 だがその当日(9月11日)。旅の疲れのせいか母・真堂優子がホテルで風邪をこじらせ(元から体が弱い)、姉・真堂智美が看病することになり、替わりに陽一と弟・真堂李玖が父を迎えに行くことになった。

 待ち合わせ場所の『世界貿易センタービル』付近にいた陽一は、小腹が空いていたので近くの売店でホットドッグを買ったところ、弟とはぐれたのに気づいた。
同時に辺りの急な変化にも気づく。

旅客機がビルに激突したのにも関わらず、押し押せる人波に飲み込まれ欠けても、必死に弟を探す陽一は、いずれ巨大な影に多い尽くされて、一定の闇にさ迷い続けた。

そして、しばらくして一筋の光が見え始め、それがだんだん広がっていき、みずから命拾いしたことを悟らせた。だがその向こうに手を伸ばした先は、決して生還できたことによる希望ではなく、光のはてに目撃して生まれた絶望だった。

 陽一にとってその光景はとても、信じ難いものだった。一瞬で廃墟と化したビルの残骸と一緒に落ちている数十体の死体の前に、膝を着いて唖然としている弟の姿だった。

「―――そんなことが……」

「弟の李玖はあれから何日か起って。普通に振る舞っていますが……、多分まだあのトラウマに苦しめられていると思うんですけど……」

 『911』以降、李玖は口が聞けない状態が数日続いていた時があったが、なぜかその事件で父の死を知った時に、突然の切り替わるかのように少しだけ立ち直っていた(ちなみにしばらく空を見ることをできなくなったのがその時である)。

「その事に関して心を開いてくれないと」

「はい……よくおわかりで?」

「さあ『女の勘』ですかね……。でもなぜ私にそんな話を?」

本当だったら陽一が話した事は美麻には関係ないはずが、なぜ独りでにしゃべったのか彼女には不思議でしょうがなかった。

「教授に頼まれたんです」

「おじいちゃんに?」

秀正に頼まれた。その事に関しては、なんの義理があって頼まれたのか、美麻はまた深い謎に追いやられるように首を傾げる。

「さっきの事件の話を教授に話したんです。そしたら「その話をもしよかったら家の孫娘にも話してやってくれないか」って、言ってたんですよ」

 「どうして……」

「「他人事じゃない」らしいです」

「え?」

そして陽一は美麻に全てを話だす。

「人類はこの世界で産まれた以上、世界と無関係でいられない。それがたとえテロでも……、俺達人間は全てが繋がっているらしいんです。簡単に言えば『運命共同体』ってやつですかね。教授は未だに一つにならない世界に嫌気がさしている中、俺が『911』の話をした時に、まるで神父の説教のように、独自の『対話思想論』について私に論じたんです。その後に殿難さん、孫娘であるあなたにこの話を伝えてほしいと」
 まるで冷静さその物のように一方的に喋る陽一。どこか死者に対しての『伝言』をしているようだった。

「でも面識の少ない私をなんの義理があって―――」

「多分、遺言だと思います。たった一人の孫娘に対しての精一杯の……」

あまりにも突然すぎて返答に困った美麻は、再びしゃがみ込み戸惑い始めた。

(おばあちゃんは、そんなおじいちゃんひかれたんたろうか……)

「す、すみません。私だけ一方的喋ってしまって!」

戸惑いがちに美麻は、心の中で祖母の祖父えの思いを呟いたはいいが、その矢先に陽一は急に我に還ったかのようにかしこまる。

「そんなことは―――ない……です!」

美麻はさらに戸惑ったが、すぐにぎこちない返答をした。

「あの……、一応教授に頼まれた事はこれで全部です」

「そうですか、わざわざありがとうございます。私なんかの為にこんな……」

しばらくすると二人は互いにかしこまり、陽一にあまり面識のない祖父について、いろいろ詳しく教えてくれた事に対して感謝の意を表した。そして最後に、黙り込むように美麻は謙遜した。

「たとえ面識の少ない孫娘でも、教授は影であなたを大切に思っていたことだけは伝えたかったので」

「真堂さん……」

この時、祖父・殿難秀正が常人離れしたピースメーカー(平和主義者)だと分かったと同時に、美麻は主人公の兄・真堂陽一に、なにか女性を魅了するような印象の持ち主だと感じる。

(守るべき家族がいる人……か、ちょっとカッコいいかも)

そして、陽一の人柄に魅了されつつ、この出会いが美麻にとって人生の一変させる『運命の出会い』となる事とは知るよしもなく、彼女が自らある出来事によって気づくのはまだ先の話であった。

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