2005年4月30日。土曜日。昼。教会。
真堂李玖14歳。
「はぁ〜……、今頃どうしているのかな……アベルさん」
アベルが真堂家を去ってから10ヶ月。今日は学校の行事の参加者・真堂李玖、崇妻獅郎、神崎洵の三人は、二回目の教会の掃除をするボランティア活動をしていた。そして教会の中に祀(まつ)られ、まるで生傷が残っているかのように、まだ復旧もせず破壊されたままのイエス像。そこに設置されている祭壇(さいだん)を見つめながら、真堂は最初にアベルと会った頃の事を振り返える。
「過ぎた事を振り返っても、しょうがないんじゃないの?」
思い出に浸りながら一人作業が遅れている真堂。アベルが去ってしばらくした後に事の真相を知った神崎が、まるで女性を口説くような口調で問う。
「突然だったからな……、あん時のおまえはかなり凹んでたからな。しかも1週間くらい学校休んでたろ」
「うっ」
その時に関して獅郎に指摘されて真堂は、まるで流れ矢にでも射抜かれたように、苦い表情を浮かべる。
「まあさ……李玖、これが終わったら久しぶりに『将龍軒』でも行くか? よかったらおごるぜ」
「……いいの?」
「もちのろんさ!」
近頃サイフにバブル経済が芽生え始めている神崎は、最初に誘われて以来、まったく『将龍軒』に来ていなかった。そのことで真堂は、彼の気遣いに甘えるのも悪くはないと思い、早急に作業を進めるようになった。
「………」
「ほらほら、獅郎もそんな所で浮いてないで、掃除チャッチャと終わらして飯食いに行こうぜ」
スカッーン
「え……!」
その言葉に気にさわったのか、獅郎は胸ポケットにあったシャーペンを即座に、ダーツを投げるかの如く、神崎の横のギリギリに投げ込み、見事に彼の後ろにある壁にくい込んだ。
「てめぇら……早く掃除しろやコラッ!」
ただでさえ休みの日に働くのを嫌う獅郎。それでも強制的に参加していることで、彼は怒りが込み上げつつあり、イライラしている最中に先ほどの神崎の発言で、怒りが爆発した状態でシャーペンを投げつけたのであった。
「はい!×2」
二人は獅郎の鬼にも近い表情を見て、すぐさま無言のまま作業に取り掛かったという。