小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

ミセリコルディア財団と崇妻財団の関係―――そもそもミセリコルディア財団の創立された国はイギリス。そしてその創立年は『1905年8月12日』。当時の日本・大日本帝国の外交政策の基盤となった『日英同盟』の二次調印によって、友好関係になっている二つの国の中枢に位置する二つの財閥・ホワード家(イギリス)と崇妻家(日本)の講話がきっかけに創立に発展したという。

「へー、そんなウィキペディアにも載ってないことをよく知ってんな」

「表側には知られていないが、裏側ではミセリコルディア財団を創立した影の立役者だったんだ」

 二人の話は少し難しい内容ではあるが、一応学校の授業だと思って真堂は耳を通し、後に次のように質問する。

「そうか、もしかして日本が列強入りになったのも、それが関わっていたりして……」

「おお、おまえにしては鋭いな」

「!」

兄が大学で歴史選考だった影響で、だいたい歴史の常識ぐらいは持ち合わせていた。その為、真堂はありもしない仮説を獅郎に問うたところ、まさか本当に正解するとは思わず、無言で面食らった表情で幼なじみの横顔を振り向いた。

「ん? でも最初の調印の時に講話の機会があったんじゃないのか?」

獅郎の財団創立の説明内容に、神崎は一番目立っている矛盾を問うた。

「二次調印の3年前(1902年1月30日)の一次調印の時はただの接触だけで、まだ互いを知らない状態だったからなあ。まず講話の前に二つの財閥がお互いに選抜した代表者を派遣したらしい」

「つまり、親善大使―――」

獅郎の話をシンプルに解釈する真堂。

「まあ、そんなところになるな……、日本に派遣したホワード家の代表者が、滞在期間を終えたにも関わらず突然滞在の延長を申し出たんだ。その代表者は祖国に帰らずに理由は不明だが、そのまま滞在し続けたらしい。だがここで予想外の展開が起こる。イギリスに派遣した崇妻家の代表者は、ホワード家の代表者と比べて滞在期間を終えてそのまま祖国に帰還した。それから3年の月日が起ち、未だに滞在し続けたホワード家の代表者が、崇妻家の代表者と婚約を結んだんだ」

「婚約?」

急に獅郎の説明の一段落目に『婚約』という単語に、真堂は妙な唐突さを感じたところで、この話しの意外な展開を表し始めていた。

「さあな、ホワード家が派遣してた代表者は男。対して崇妻家の代表者が女で、まあ互いに引かれあったのかも知れないが、とにかく記録では婚約を結んだ事で、二つ財閥の講話まで発展して、ついに1905年8月12日。初期のミセリコルディア財団が誕生したわけだ」

「へー! よくそこまで知ってんるな」

今日に限ってここまで口数が多いのと、うまく省略できた説明に感心した神崎。

「昔、俺の家に仕えていて、世話役だった史悠源(しゆうげん)って奴に教えて貰った」

「本当に獅郎の家ってお金持ちなんだね……」

 頭の中に獅郎の実家がどんな家なのか、ベタな想像をしながら真堂は好奇心を湧かせた。

「今なにやってんのその人?」

「ん〜……お袋の愛人」

「!×2」

神崎が不意に言った質問に獅郎が答えたところ、返答した内容に『愛人』という単語に敏感に反応し、二人は(お袋さんは男ったらしだったー!×2)と心の中で叫んだ。

「さっきの話に戻るが、その婚約した二人の名前は、崇妻家の女性代表者・崇妻妃(あがつまきさき)。ホワード家の男性代表者は……阿部黒斗(あべくろと)ってんだ」


「あべくろと……ん? イギリス人だよね……なぜに日本の名前?」

途中で詰まった言い方をした獅郎の明らか矛盾に、すぐに気づいた真堂は問う。

「いや、この前おまえに、崇妻妃とアベルと瓜二つの人物が写っていた写真の話をしたろ(第一章・第5話参照)」

「たしか、獅郎家の所有している蔵にあった。明治期に撮られた写真だよね?」

「実はその二人の写真の裏に名前がかすかに残ってたんだ」

10ヶ月前にその古い写真の件で話してから、獅郎はさらに記憶を懸命に掘り起こした。結果、いつ話そうかと考えているうちに、神崎が『ミセリコルディア財団』のことを聞いた事で、その話しに持っていったである。

(阿部黒斗……、一体アベルさんとどんな関係が……)

頭の中では謎の青年・アベルに関して、まるでなん数本の釣糸が絡まるように迷走する
そして真堂達は空腹を理由に話を途中で後にし、教会を出ていき『将龍軒』に向かうのであった。

-113-
Copyright ©デニス All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える