小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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 同日。東京都。新宿区。アルスターカンパニー日本支社。
いくつものビル群が立ち上る新宿で、一つだけただならぬ存在感を放っている大企業のビルの最上階に、ある男が自らのデスクに背を向けていた。男はガラス越しに見える人ざかりを見下げ、仕事の合間に少しだけ暇をつぶしていた。

(予定の時間が過ぎている……。いつになったら『元老院』の使者は来るんだ?)

男の名は神崎正志。神崎洵の父にして、アルスターカンパニーの医療部門を束ね、6人の支社長(アルスターシックス)の中でも二番目に優秀な幹部の一人である。明日は同盟を結んだ未解の組織・『元老院』に本社から特使、今日は支社からは使者が送られるとの事で、日本支社の場合『赤い使者』が訪ねてくる。そのことで部屋で待ち、報告された待ち合わせ時間に来るはずが、30分もオーバーしていた。

「はあ〜、これだからアメリカ人は……」

正志はため息を吐きながら、使者が遅れてくる理由を人種の典型的な所のせいにして、イラだちを抑えていた。

「社長?」

窓越しの景色に気を取られていた正志は、後ろにいる部屋に入ってきた女性秘書に今頃になって気がついた。

「ん……ああ、すまない。少し考え事をしていてな、なにか用かねチャーリーくん」

 謝罪をしながら正志が今話している女性は、最近入社したばかりにも関わらず、独特の美貌で仕事を柔軟にこなすインテリ中国美人秘書・チャーリー=ワンだった。

「はい。受付から「社長に面会を予定していた客人が来ている」という連絡をいただいたので、ご報告に」

「客人?」


「それが客人から『赤い使者』と伝えればわかると、言ってましたが」

「!」

報告にあった日本支社に訪ねてくる元老院の『赤い使者』という使者の一人が遅刻して来た。そしてあまりにも非常識な状態で来たことに、正志は驚きを隠せずにいた。

「どういたしましょうか?」

「通しなさい」

さすがに遅刻したからといって通さない訳にもいかず、そのまま客人に手続きをさせて部屋に招いた。

5分後。

「いや〜、遅れてしまって申し訳ない」

やっと部屋に来た『赤い使者』と名乗る男は、馴れ馴れしく言い訳をして、社交性に欠けるふざけた笑みを見せる。

「………」

「なにか?」

怪しい物を見る目で正志は、彼に対して妙な違和感を感じていた。
 服装は白いたて線の模様で覆われて黒いスーツを着こなし、肌は異常に白く、帽子を外すと髪型は赤毛のオールバックでいる。
 そして赤い瞳で笑みを浮かべているのにも関わらず、目付きは全く笑ってはいない。正志自身は想像したくはなかったが、まさに未知の組織にふさわしい容姿だった。

「いいえ……なんでも」

いちいち指摘するのも面倒だったので正志はそのまま流した。

「おっと、そうそう。自己紹介がまだでしたね、私はアラン=ゲイブリル。アランとお呼びください」

元老院の『赤い使者』改めアラン=ゲイブリルは、親しみを込めた挨拶をし、さっそく本題に切り替えようとした。

「我々の組織が提案した、『アルマゲスト・ロゴス』の件なんですが―――」

「それなら心配はいらない。うちの防諜部が極秘にエンジニアを選抜している途中だが、プロジェクトにはなんの支障はない」

「そうですか……」

安堵を感じ、ため息混じりに言うそのセリフに、正志はどこか奇妙な冷たさを感じさせた。

「……少し唐突にきくが」

「―――なんです?」

「『元老院』とはなんだ?」

「プッ……クスクス」

明らかにダメ元に言ったその言葉に、アランは微笑を浮かべたと同時に少し吹いた。

「アラン?」

「フフ……、いやいやこいつは失敬。残りの使者達も、同じ事を問われているのだと思いましてね」

「ん?」

アランのセリフに妙な引っ掛かりを感じ、不思議と首を傾げながら話を進める。

「ゴホンッ……。いいでしょう。実際私達は一切の情報漏洩を許されてはいないのですが、同盟を組んでいる仲です。ヒントぐらいは教えできますが、いかかでしょうか?」

「ヒント……か、いいだろう」

 「それでは―――」

相手の承認得たのを確認したアランは、本当だったら許されない『元老院』に関するそのヒントを説明した。そして―――

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