小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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10分後。

「―――以上です」

「ほう? 君らの組織はゴルバチョフに追い出された、『あの組織』の欠片にすぎないと言うことか……? 名残惜しく誇大妄想にひたるにも程があるだろう」

 しばらくアランの説明を聞き、ヒントを手がかりに、まるでバラバラだったパズルを完成させたかのように、頭脳明晰な正志は『元老院』の正体に言わずと気付き始めていた。

「そういう所は頑固なんですよ、『元老院』は」

まるで自分の親に呆れる息子のように、アランはため息混じりに返答する。

「それじゃあおまえも、噂に聞く『魔女の遺物』なのか?」

「さあどうでしょう……。私は今の自分を何かに例えれば、『飼い主を亡くした犬』ですね……」

「なに?」

「どういう意味で受け止めるのかは、あなたにおまかせします。今回私が来た目的は、これをあなたに渡すようにと―――」

そう言うとアランは、ある『データディスク』を正志に手渡す。

「これは?」

「『DARPA(ダーパ)』の『ATO(先進技術研究室)』から作成された『高性能AI(人工知能)維持装置』の仮定データです」

「な……! アメリカの『国防高等研究計画局』のデータだと!」

なんのへんてつもなく見えたデータディスクの正体は、正志は驚愕した。手渡す直前に言われたので、一瞬だけ静電気に接触したかのように触れるのを一時的に拒んだ。

「そうですよ。別に驚くことはないでしょう」

驚愕するのを悟ってのことか、アランはいたずらに成功した加害者の笑みを浮かべる。

(『元老院』は『ペンタゴン(国防総省)』までも勢力圏に入れているというのか……、おそらく長官もあるいは……)

もともと『DARPA(ダーパ)』は国防長官直轄の組織である。それを知っている正志は相手の組織の全貌が少しずつ明らかになるたび、精神的な脅威が段々膨れ上がっていき、大量の冷や汗をかいた。

「用は済んだので、私はここでおいとまさせていただきます」

「……待て」

ちょうどアランが部屋の出口のドアノブに触れようとする瞬間、名残惜しげに正志が呼び止める。

「なんです?」

「さっき情報漏洩がどうとか言って、なんであんなヒントまがいな話をした」

『元老院』の正体について数分前に理由をつけて話した。そのことで内容が八割型答えに近かった為に、組織を従う身であるアランが、どうしてそんなことをしたのか、正志はどうしても気になってしょうがなかった。

「さっきも言ったでしょう私は『飼い主を亡くした犬』だと。前の主人を亡くし、その主人に仕えていた者が主人なり、今の私がある」

 「なにが言いたい……?」

 「要するに、私は今の組織に従う義理はないんですよ」

「!」

自ら組織に対する忠義を脱していることを正志しに告げ、アランはそのまま部屋を出て帰って行った。

「一体あの男と組織は……」

当然のように不安と謎を抱えながらも、正志はアランに渡されたデータディスクを自前のパソコンに入れて、さっそく解読に移り、プロジェクトを次の段階に進めるのであった。

 一方。真堂達は―――

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