小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「………」

(……超きまずい……)

対話の機会をもらったのはいいが、お互い最初に発する言葉に迷いながら、未だに口を閉ざしている二人。

「あの……、アベルさん……」

「……なんだ」

しばらく沈黙が続くと、この息がつまる状況に絶えられなくなった真堂は先に喋り、アベルはそれに少しだけ応じた。

「……さっきの店の中で話した事の続きなんですけど。なんで去年あんな行動にでたんですか?」

「……あの時―――」

一年前にどうして書き置きを残して、失踪したのかを問う真堂。それに対し、アベルは再度しばらく黙ると次のように答える。

「え?」

「一年前に……、李玖達を殺そうとした異常に肌が白かったガキに、俺が殺された。そで一回死んで俺が生き返る間に、記憶を少し取り戻した時があったよな」

「例のフラッシュバックですか……?」

話の中に去年、同じクラスメイとのイザコザ(第1章4話参照)に真堂が巻き添えをくらった件で、アベルはその事を持ち出したと同時に深刻な表情を浮かべる。

「そうだ……。あれ以来、断片的にだが記憶が次々と蘇ってきたんだ」

「え? それだったら、かなり好都合だったんじゃないんですか?」

相手の気持ちと関係なく真堂が言った事で、アベルの表情はより深刻な表情を浮かべ、眉間にシワを寄せる。

「たしかに……、だがその蘇った記憶の中には、とんでもないものも含まれていた……」

「なんなんでスか……一体?」

「人を……殺した記憶だ―――」

「!」

そう言いながらアベルは、その殺したと思われる人間の命を奪う瞬間が脳裏によぎった。それにより自らの手が血で汚れている事を告げたアベルに対し、真堂は彼のかなり複雑な心境にどう接するのか考え込んだ。

「他にも記憶を取り戻して確かではないと思うが、なにかヤバイことを抱えているような気がしてて……」

「それであんなまねを……」

一年前にその記憶を手探りで真相を知ろうとした結果、自ら強大な敵を抱えていることを悟り、世話になった真堂家を危険にさらすわけにもいかなかった。その為、書き置きを残したあとに出ていき、今に至る。

「もどる気はないんですか?」

「今はない……、俺はしばらく京都に行く金を貯めていこうと思う」

真堂家に戻らないという決意は固く、しばらくアベルは源六に世話になることを告げた。

「そういえば京都で拾われたって聞きましたけど、どういった理由でここに?」

「いや……去年ぐらいかに、金がなくて飢え死にしそうになった時に拾われたんだが……」

「え……? ノープランで出ていって、京都までどうやって行ったんですか!」

「徒歩で」

「な! 関東から関西までどんだけの距離があると思ってるんですか! それに、なぜに京都まで?」

アベルが言うように後先考えずに真堂家を出てった為か、ほとんど基金といった物は持ち合わせてはなかった。後に世間知らずな面を埋められるかのように、まるで新しい世界出たかのように何度か目新しい物が飛び交い、同時に戸惑いがちな時があった。だがなんとか京都まで着いたのはよかったものの、ついに飢えに絶えられなくなり生き倒れ、後に偶然通りかかった源六に拾われ、今に至るのであった。

「それは……、取り戻した記憶の中に、手がかりになりそうな『ある景色』を頼って、そこにいったんだ」

「ある景色? それって京都に関係する?」

「そうだ。夢でかすかにだが、着物似合う白磁色の肌をした女性がいて、その後ろに高く並ぶ紅葉の木々の景色が見えたんだ……」

「たしかに紅葉の木々と言えば京都ですけど、その女性って?」

「わからない……。ただ言えるのは、俺にとってとても大切な人だったんじゃないかって、心の中で引っ掛かってんだ……」

「そうなんですか……」

新たな手がかりをつかんだのはよかったが、まるで道の途中で壁が立ちはだかるかのように、さらなる謎に行き着く。そして二人は同時に頭を支えながら深く瞑想するしかなかった。

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