小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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2005年5月6日。金曜日。神奈川県。学校。朝。

「なあなあ! GW(ゴールデンウィーク)初日に北朝鮮がうち(日本)にミサイル射ってきたの知ってか!」

「ああ、知ってる知ってる! でも海に落ちたから、国内にはあんまり影響なかったんだっけ?」

「そうそう、明らかに日本にケンカ売ってるべ」

学校の教室で、なにやら二人の男子生徒が物騒な世間話しをしているのをとある少年が聞き付ける。その話の内容は同年5月1日。この日、北朝鮮が突然日本海に地対鑑ミサイルを発射し、特に本土には被害はなかったという話題である。

 (『北朝鮮』か……、そんなに強い所を見せたいのかな?)

 この事件の一番の特徴は、なんといっても北朝鮮が明らかに世界に注目を集めるが為、日本に挑発的な態度をとり、自ら首を締めるかのような姿勢をとっていることにある。少年は個人的に下らないその話題に呆れる。そのことで正直耳障りにも感じていたので、いっそのこと屋上に行って、朝のHRが始まる前に気分を入れ替えようと行動に移ろうとした。

「あっ、おはよう李玖くん」

立ち上がった瞬間、教室に入って来た少女が真堂李玖の横から朝に欠かせない第一声をかける。

「おはよう石川さん―――ん?」

すぐさま挨拶を返す真堂は、石川の顔を見てどこか違うところがあることに気づいた。

「きん……がん?」

「え? このメガネのこと? えへへ……、ちょっとGW中に難しい本を見すぎたせいで視力が落ちちゃったんだ」

まだ読んでいない本をため込んでいた石川は、長期休暇を利用して全て読み終えたのはよかったが、どうにも視力の低下してしまっていた。その為、親におさがりのメガネを譲ってもらい、ちょうど度があっていたので、学校にまでかけてきたのであった。

「そういえば本と言えば―――石川さん。これ借りてたやつ」

メガネをかけている理由を聞いて、あることを思いだした真堂はカバンから『閃光の騎士シェザード9巻』を石川に手渡す。

「どうだった!」

手に持ってすぐに石川は真堂に感想を求める。

「そうだな〜、シェザードが追放を解かれてからしばらくした後に、皇帝大陸のグラドニア帝国・アストレア女帝国・アルケニア帝国といった三つの三強国が同盟を組んで、ローレシア騎士団領と闘ったのがとてもスケールがでかくて面白かったかな」

「だよね! 3対1だと数的にふりに見えたけど、ローレシアは傘下に入れている国々に頼らずに防戦して、自国の少数の兵力を使って何回も敵軍を退いたのがすごかったよね! あの国の大きな特徴である練度が高いのを一番に活用してるから、敵は全然歯が立たないんから思わず感心しちゃうね!」

久しぶりに見えるようで、石川の作品の熱意にどこか安心感を覚える真堂は、屋上に行くのはやめてそのまま自分の机のイスに腰掛け、彼女の話を聞こうとする。

「お前らうるさいぞ〜……、ムニャムニャ……」

「獅郎また夜更かし?」

獅郎の一言で二人の話は中断され、真堂は相変わらず気抜けしている彼を見て呆れて問う。

「……まあな」

「獅郎くんはWG中は何やってたの?」

「ん? 李玖と東京ディ○ニーランド行ったけど……」

「ええ! いいな〜、楽しかったろうな」

マンガの熱意のこもった話はすっかり冷め、石川は獅郎に他愛ない話しをかけた。

「全然よかねえよ。長期休暇を利用した客のせいで、アトラクションや売店に行けなくて、まったく楽しめなかったんだから……」

「そう……」

眠気よりも気落ちした感覚が遥かに大きいことを悟った石川は、気をつかうようにしばらく口を閉ざした。

「それより獅郎。もうすぐHR始まるからそろそろ起きなって」

たとえ寝不足だといえど、学校にいる以上は獅郎の為にはならないと思ったのか、ゆすりながら友を起こそうとする。

「ん〜……」

「し〜ろう〜」

「―――この下郎!」

「あいたっ!」

突然真横から見知らぬ女子生徒が、真堂の手の甲を扇子で引っ張たいた。

「え? え? 誰?」

 「身の程を知らない下郎が! その手で高貴な『若』に触れるでないわ!」

攻撃してきた女子の方を振り向き、明らかに知らない女子生徒だということが分かる。言動からして獅郎をゆすったのを理由に攻撃してきたらしいが、そのことでおそらく彼の知り合いだと真堂は確証を得た。

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