「いや、だから誰!」
よく彼女の全体を上下に視線を移動させてみると、トレードマークを表すかのような扇子を片手で持ち、髪型は長い黒髪を束ねたポニーテールで、端麗(とても美しい)な顔立ちをしている。年に似合わない豊満な胸の膨らみに、少し筋肉質でどこかたくましい印象を持たせる細い脚をしている。まるで女性の誰もが憧れる理想的な富豪令嬢のような容姿をしていた。
「下郎に名乗ることなどないわ!」
見知らぬ女子生徒は叱るかのような言い方で、教室内の生徒の注目を集めた。
(なんだこの友達が一人もいなさそうな口振りの人は……)
かなり偉そうに振る舞う女子生徒に対して、イラ立ちを覚える真堂。
「友ちゃん!」
「あら岬? あなたここのクラスだったの?」
近くにいた石川がその女子生徒の名前を思わず口にした。獅郎だけでなく石川の知り合いでもあったことに、真堂は驚いた。
「石川さん知り合いなの?」
「あ……、李玖くん紹介するね。となりのクラスにいる私の幼なじみの吉柳院友近さん―――」
「ちなみに吉柳院家の次期当主でもありますわ」
「もう友ちゃん!」
いきなり真堂に攻撃してきた女子生徒の正体は、関西では名家としてしられている吉柳院家の令嬢・吉柳院友近だった。
「なにその吉柳院家って?」
吉柳院家は日本全土に名の知れた名家であるはずだが、真堂はまったく知らずに、そのことで彼の一般な世間の薄さがだんだん明確になり始めてきた。
「な! あなた私の家名をご存知ないの!」
「うん。ぜんぜん」
「ああぁ……なんということかしら……。なら一から我が吉柳院家がどんなものか説明してさしあげましょう」
個人的に異常な発言に立ちくらみをした友近は、後に自らの家の説明をしようとした。
「いいですの吉柳院家とは―――」
「―――何百年か続く崇妻家の分家の家系で、今は造船業を主体とした有力な財閥を経営しているすごい家なんだよ」
「ちょ、ちょっと岬!?」
「だって友ちゃんの話し長いんだもん」
吉柳院家はあまりにも長い歴史を持った家系だと知っていた石川は、友近の説明がかなり長くなると悟ったがゆえに、変わりに説明をした。
「………」
「あ、獅郎」
「おお若。お目覚めになっていたなら少しお話しがあるのですが―――」
「………」
三人の話しを聞いていた獅郎は、立ち上がり友近の方を腕を組ながら見つめる。
「若?」
「……ああっ、おまえ友近か!」
「今頃お気づきになられたましたの!」
(鈍いところはまったく変わらないな……)
あまり面識がなかった為もあって、彼女が誰なのかを認識するのに時間がかかり、後から気付き友近は驚いたと同時に、真堂は獅郎の成長の傾向がないことに呆れて心の中に呟く。
「おまえらHR始めっぞ〜―――ん? 誰だおまえ?」
そんな中、ひとり浮かれるかのように真堂のクラスの担任・杉山薫が、HRの始まりを告げ、となりのクラスから来た女子生徒が誰なのかを不思議そうに問う。
「あ……、すいませんとなりのクラスの者です。申し訳ございません若。私はここでおいとまさせてもらいますが、昼休みになったらまた訪ねますので」
「……おう」
(あの人結局なにしに来たんだ?)
朝のHRが始まって友近は教室を去り、真堂は彼女がなんの用件で来たのかを気にしていた。だがあまり人の家庭事情に干渉してもいい気分はしないので、考えるのを止め、今はHRの後に待っている退屈な授業を受けるのであった。その中で、真堂はベタな青春とはかけ離れている出来事に出くわすとは彼は知らない。