小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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同年。同日。アメリカ。とある地下施設。会議室。夜。

「一人欠席だが……。時間がないのでこのまま会議を始める―――」

ある限られた者しかしらない、謎の組織・『元老院』が保有する地下施設の薄暗い会議室で、幹部と観られる3人の老人達(元は4人)が座り、会議を始めようとしていた。その一人である『元老院』の盟主・スティークス=マーロウが号令を出し、議題は『5月1日に北朝鮮が日本海に向けて地対艦ミサイルを発射』した事について始めようとしていた。

「よいのか? この状況で……」

幹部の一人で資金統制(ムダのない資金の使い方を指揮する仕事)といういわゆる組織の生命線を担う、アラブ系の老人・アドワース=レイキングが、会議に全員出席していないことに少し不安を感じ、盟主に問うた。

「遅刻してきた奴が悪い」

「ラッシュアワー(渋滞)にでも引っ掛かったんではないのか?」

シンプルに話を閉めたスティークスに対して、横から口を挟んできたゲルマン系の老人・リッター=オストランテ。幹部の一人で不穏分子の排除・使者の派遣・警護の指揮といった組織の外交と攻守を担っている。

「まあ、後から来ると思うが……、話を止めることは無理だ。本題に入るぞ―――今日集まってもらったのは先日皆が知っているように、『北朝鮮のミサイル問題』の件についてだ」

「また金正日(キム=ジョンイル)の気まぐれではないのか?」

スティークスは話を本題に切り替えた後から、アドワースが事件を簡単に解釈する。

「だったらよかったんだが……」

「?×2」

アドワースの見解を聞いてスティークスは落ち込み、それを見て二人は珍しく思ったと同時に妙に感じた。

「表側では『北朝鮮が地対艦ミサイルを日本海に発射し、特に大した障害はなかった』とある。だが実際はその『北朝鮮のミサイル』が、日本海海上に組織が秘密裏に航行させていた『ある物資』を運んだ艦艇が撃沈されたんだ!」

スティークスが告げた事実に二人の幹部は思わず耳を疑った。なぜならこの件は何らかの勢力による武力介入が起こったのである。

「どうゆうことだ! 我々の相談なしに勝手に情報操作を行ったというのか!」

普通なら判断を求められるはずの幹部であるアドワースは、その事に激怒しながら盟主に問う。

「ダックマンの差し金ですか……」

いくら幹部と盟主といえど、ある理由でダックマンにより行動と権限が制限されていて、今の状態ではちょっとした『おかざり』のような立場におかれていた。

「なにぃ? またあの若僧の仕業か……、『ダンテ』の時代が懐かしいな」

ある人物の名前を口走りながらアドワースはため息を吐く。

「そう言うな。話は戻るが、その撃沈された艦艇は『イージスシステム』搭載の『アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦』だ」

「―――イージス艦が!」

非一般な常識だとスティークスの言う艦艇は、アメリカ海軍が60隻以上保有している防空艦で、普通だったらミサイルで撃沈されるのはありえないはずが、実際にありえた事で、アメリカの軍府をも勢力に占める『元老院』にとってはかなりの痛手だった。

「ダックマンの調べだと、あれは北朝鮮が独断ではなく、中国からの圧力が掛けられた痕跡があるらしい」

「中国が……! なんの目的で……ん? ちょっとまてスティークス。その撃沈された『イージス艦』が運んでいたとある『物資』とはなんだ?」

沈んだイージス艦から乗せていたと言われる『ある物資』と聞いてアドワースは、心当たりがなかったのを理由にスティークスに問う。

「それは……ロシアのシベリアから発見された『聖餐者』だ」

「まさか……、あの『シベリア虐殺』の後に行方不明だった『彼女』が見つかったのか!」

例の『ある物資』の正体は、『聖餐者』というなにか重要な用語で呼称されている人物だと、スティークスは言う。

「惜しいな……、しかしなぜ『イージス艦』がたかがミサイルに撃沈されたんだ? まさか故障―――」

「いやそれはない。考えられるのは一つ。『ただのミサイルじゃなかった』としたら」

軍事関係の知識に長けていたリッターは、ありもしない艦艇の撃沈された可能性を説いたが、スティークスは否定してある推測をたてた。

「それは……、ばかな! あの組織とは同盟関係のはずじゃ!」

みなまで言わずとも会議室にいる三人うち二人が、イージス艦の撃沈に『アルスターカンパニー』が関与しているのではないのかと疑う。

「いやリッター、私はあの頭がキレる『ロギア』があんなことをするとは思えない」

「だが盟主よ。それ以外考えられないではないか!」

「老いているせいか度忘れしたかアドワース!」

「な、なにをっ! 一体誰があの組織を指揮っているというのだ」

この事件を起こした黒幕に心当たりがあったスティークスは、ひとめで分かるくらいの冷や汗をかきながら、それを見た二人の幹部は唾を飲み、次に盟主が答える発言が『元老院』にとって恐ろしい事だと悟る。

「かつて我らの『同志』だった男だ」

「な……まさか奴が! 『冷戦』が終結した後で『人間としての平均寿命』を過ごしているとはいえ、まだに生きているというのか!」

スティークスは何が言いたいのかを悟ったリッター。どうやらかつての仲間であると同時に、とんでもない危険人物でもあった。

「認めたくはないが、奴は冷戦終結と同時に自前で強大な組織を作り、我々に反抗的な態度をとっている」

「『桜』、か……まさか本当に存在していたとは」

リッターはある組織の名前をため息混じりに口走った。『元老院』の敵は『アルスターカンパニー』だけではなかった―――

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