過去に『元老院』は湾岸戦争、イラク戦争といった問題にある理由で介入した後、アジア大陸のなか中東以外を勢力に治めようと試みた事があった。主に中国を勢力に取り入る為に、政府高官数人を仲間に入れることに成功し、このことで『元老院』は中国を勢力下に置くのは時間の問題かと思われた。しかし高官達と情報の交換をし始めた頃、一部に『桜』という謎の組織の存在が浮かび上がってきた。アジア大陸の各国の政界では、一種の都市伝説のように不可思議な存在で、主に東アジアを勢力に治めている。そういった怪しい不穏分子を取り除きたかった為に、『元老院』は高官達に詳しい情報を要求した。結果しばらくしてその高官達は事故、病気、自殺といった死因でこの世を去り、連絡が絶たると同時に中国を勢力入れる事は完全になくなった―――と、こういうきっかけで『元老院』は、『桜』という『驚異』に遭遇したのである。
その後、スティークスは『桜』という組織名を付ける人物に心当たりがあり、今はそれを盟主自信が幹部達に告げたことで、さらなる口論が始まろうとしていた。
「ではあの武力介入は、一年前に幹部と思われる『矢島哲斎』を殺した腹いせだというのか? なぜ今になって!」
なぜ今頃になって邪魔をするようになったのか、アドワースはそれが理解できずに盟主に問う。
「なんにせよ、これは『奴』からの宣戦布告だ! 我々はあの『アジアの眠れる獅子』を敵にまわしてしまったことには違いはない!」
スティークスはさらなる警戒を強めるかのような断言をした。
「では同盟関係である『ロギア』と相談場を設けますか?」
外交担当のリッターは盟主に問う。
「なんとしても『アルマゲスト・ロゴス』を邪魔させる訳にはいけない。あの男をしん―――」
「スティークス様!」
ある人物の名前を口にしようとした瞬間、急に会議室に現れた黒いスーツの少年が、スティークスに駆け寄る。
「なんだアシュレイ! 今は会議中だぞ!」
「申し訳ございません。ですがゆゆしき事態が起こったゆえ」
「……言ってみろ」
滅多にないアシュレイの慌てた形相に、それほど大変な事が起こった事を悟ったスティークスは、発言の許可をあたえる。
「は! ここに車で向かっていたフェルナンド=ハルツェブナク様が、何者かに狙撃されました」
「!×3」
アシュレイの発言で会議室は騒然とした。なぜなら『フェルナンド=ハルツェブナク』とは、今行われている会議に参加するはずだった同じ老人で、防諜を担っている『元老院』の幹部の一人である。
「フェルナンドはどうした!」
「残念ながら……運転手もろとも……」
ためらいがちに返答したアシュレイは、自らの主人にフェルナンドの死を告げ、幹部の一人が殺されたという一大事に室内は重く冷たい空気が広がった。
「狙撃はした犯人は?」
さらに冷や汗を流すスティークスはアシュレイに問うた。
「犯人はいまだ捕まらず逃走しています。それと……狙撃現場からスティークス様あてにこんな封筒が」
「ん?」
アシュレイに手渡された封筒をスティークスは開封し、中にあった二つおりの紙を開いた。
「くっ……!」
「スティークス様?」
紙の書いてある内容を見たスティークスは、苦笑を浮かべた。それを見て妙に感じたアシュレイは主人に問う。
「―――犯人を生け捕りにしろ! 拷問にかけてでも『奴』の目的を吐かせるのだ!」
「は!」
火がついたかのように立ち上がり、怒りが込み上げたスティークスは、叫び散らすかのようにアシュレイに命令した。その後、脱力して倒れ込みながらイスに座り、片手に持っていた紙を握り締めた。
このことで盟主であるスティークス=マーロウは、紙の内容を見て自ら『パンドラの箱』を開けたことに気づいた。その紙の内容はこう書いてあった。
英語で『おまえらに春が訪れる』と―――