小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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同年5月7日。土曜日。昼。ベルギー。ウェスト=フランデレン州。ミセリコルディア自治領(呼称)。エリアーデ大聖堂。

ここはベルギーのフランデレン地域の北西部に位置するウェスト=フランデレン州の中で、更に北西に位置して四分一を占める『財団』私有地並びに本拠地・『ミセリコルディア自治領』。この名称はあくまで呼称にすぎなく、一応原因としては『治外法権区域』であることから、よく『EU』の政界からは異名付けられている。当然ながらこの私有地では、『経済・救済・宗教』といった三つの活動を名目に、世界に展開している総司令部及び総本山を担っている場所である。

(ああ……神よ。なぜ世界はこうも争いが絶えないのでしょう)

そんな地で『教団』が独自に所有している聖堂・『エリアーデ大聖堂』に、まつられている果実をかたどった紋章にひざまづきながら、祈りを捧げる一人の少女・ホリー=シュミットがいた。

「ホリー……いえ、教皇様。お祈りの途中申し訳ございません。お迎えにあがりました」

慎ましい歩き方で短髪の丸メガネをかけた神父の青年が、祈りをしているホリーの後ろから声をかけた。

「フフ……、ジャスティン。二人の時はホリーでいいわ」

祈りを止め立ち上がり、後ろを振り向いた後に微笑を浮かべ、親しい友で直属の騎士(ボディーガード)であるジャスティンに本名で呼ぶことを許す。ちなみに『教皇』と呼ばれたのは、彼女が『ミセリコルディア教団』の統率しているからにある。

「そ、ハハ……ではホリー様。今後の6月中の予定についてなんですが―――」

親しくするのを拒んでいる訳ではなく、ジャスティンの仕草はただの照れ隠しにも見える。正確には単純に女性に対してあまり免疫ない。その為かジャスティンの口調は少し上擦っていた。

「そうですわね。6月の主な予定だと確か、6月11日にロンドンで開催される『サミット(主要国首脳会議)』の参加。あと6月16日に財団がインドネシアで行っている『スマトラ島沖地震復興支援活動』の視察。それと6月27日に『福岡県西方沖地震の支援協定の調印』でしたわよね?」

いちいちスケジュール帳に書かずとも、まさにしっかり者をアピールるするかのように、ホリーは6月中の主な予定を全て覚えていた。

「さすがホリー様。もう私がいなくても、ちゃんと実務をこなせるということですな」

 それに思わず感心するジャスティン。一応彼は彼女の騎士と同時に執事でもあった。

「もういつまでも子供じゃないのよ。それなりに立場をわきまえているつもりなんですから」

「そうですね……天国にいる先代の『ソフィア様』も、お喜びになっていることでしょう」

「だからこそ早く今の『内戦』を終わらせなければなりません」

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