小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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同日。藤沢市民病院。夜。

「う……んん……ここは?」

真堂は公衆の面前で倒れた為に近くの病院に運ばれ、しばらくしてから気を失った状態で検査した結果、特に体には大した害なく後にベッドで目を覚まし、今に至る。

「あ……気がついた」

(きれいな……青い……瞳)

目を覚ましたと同時に、見憶えのあるサファイアの如く透き通った青い瞳の女性に声をかけられ、その時彼女が気絶した真堂を助けてくれたことを悟る。

「よかった。声をかけようとしたらいきなり倒れるんだもん、びっくりしちゃった」

「確か……ドロボウさん―――」

「違います!」

「え、でも―――あの時……兄さん部屋にいましたよね?」

助けてくれた人物の正体はGW初日の深夜に、真堂の兄の部屋に忍びこんだ美女だった。

「あ、あれは……不可抗力よ。窓が全開にしてあったから……」

(ああ、やっぱり戸締まりしていなかったのが響いたか……)

不法侵入した理由を話されたことで、真堂はあの件が自分の不注意のせいで招いてしまったことを悟り、この時点で彼女を咎めることをやめた。

「うぅ……」

苦虫を噛んだような表情を浮かべ、彼女は他に言い訳に使う言葉もなく、ひたすら唸ることしかできなかった。

「不可抗力なら……しかたないですよね。すみません助けてくれたのに」

「い、いいのよ。あの時、勝手に入った私も悪いし……、今でも陽一が亡くなったことが信じられなくて……」

「やっぱり。兄さんの知り合いなんですか?」

彼女が真堂の家に忍びこんだ時に、兄の部屋で陽一の名前を口ずさんでいたことを思い出す。

「あなたはたしか李玖君よね。あたしは殿難美麻。陽一……じゃなかった―――お兄さんとは一年くらいに付き合っていたの」

彼女改め殿難美麻は自己紹介と同時に、真堂の兄・陽一とは一時期親密な関係だったことを告げた。

「つまり兄さんの『彼女』ですか……? そんなこと聞いてなかったけど……意外だな」

「そう……」

「ん……?」

真堂が言ったセリフを聞いた直後に、美麻は重苦しい表情を浮かべ、まるでなにかを恥じるかのような素振りを見せた後に次のように問う。

「やっぱり、陽一は私のことふせてたんだね……」

「兄さんが……? 失礼を承知で聞いていいですか。殿難さんから見た兄さんは、どんな人だったんですか?」

この時、少年は自らの好奇心に誘惑されたことには間違いなかった。真堂は兄の違う一面を知るために、美麻に恐る恐る慎重に質問をした。

「美麻でいいわ。そうね……、あの人はどこか『ミステリアス』な一面が結構目立ていたかな。自分より他者を優先して気を使ったりするから、代わって重荷を背負うのが『日常茶飯事』だったこともあった。それでお節介を焼いたことも何回かあったな〜。でも一番いいところは、家族の為に命を差し出すかのようなあの感じが、彼に引かれた要因なのかもしれないわね」

「フフ、兄さんらしいな……」

美麻の陽一に関しての話を聞いた真堂は、思いでにふけるかのように笑みがこぼれ、それを見た彼女は次のように答える。

「そういえば、もう体の方は大丈夫なの?」

「はいなんとか。との……じゃなかった。美麻さんの話を聞いたらなんだか元気がでました」

持病があるわけでもないのに、さっきは心臓発作に近い激痛が体中を走って倒れた真堂だが、今では嘘みたいにピンピンしていた。並み程度に引っ掛かりは感じているが、今は兄のことで気には留めなかった。

「お兄さんのこと好きだったのね」

「好きというより……尊敬していました。美麻さんが言ってたように、『リーダーシップ』に長けていた兄さんは、父さんが亡くなってもなにも動じず、俺達家族を誠心誠意ささえてくれたんですよ。たとえ亡くなった後でも、いつか俺も兄さんみたいに『家族を支える立場』になろうと思うんです」

「李玖くん……」

真堂は自ら持っている唯一の『夢』を美麻に明かし、自慢話をするかのように笑みを浮かべ、どれだけ大事な『夢』なのかをアピールした。心の中では幾つかの不安な要素が引っ掛かっていたが、いくら淡白な真堂でも『叶えたい』という一種の『欲』があることには間違いはなかった。

たとえそれが真堂自ら『帰る場所』を創ることになっても―――

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