小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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5月9日。月曜日。夕方。片瀬。ミセリコルディア財団日本支部(教会)近辺。

「きたれ日の本!」

二メートルぐらいの背丈と丸メガネをかけ、陽気で年に似合わない筋肉質の初老の神父がそこにいた。道中で爽やかな笑顔ととともに、目的地に着いたことから自ら、今いる国の旧名を叫ぶ。

「ま、マクベス神父。急にどうしたのですか!」

その横にいた二十代の平均的な身長をした、中性的で健康な面持ちをした金髪の若い神父が、急なマクベスの発言に動揺する。

「ハッハッハッ! いやいや失敬ミスター・クラウス。まだこの国に来た時の喜びが絶えていないものでして」

「まったく……」

2日前。マクベスは『財団』のホリーを含む最高幹部全員に、『東方遠征』の許可をもらったことはよかったが、あいにく『フランク騎士団』は『ならず者の集団』でもあり、同時に一種の危険因子としても見られていたので、他国で問題な行動をしないことを防ぐ為に、一人の『お目付け役』が動向していた。それは二年前に、「『財団』の権力闘争を引き起こした原因を作って昇格した」、というかなり異例の出世を遂げた新米の『パラディン』・クラウス=フォルタニカだった。

「ハッハッハッ! まあそうつまらなそうな顔をなさるな。せっかく『サムライの国』に来たというのに、もうちょっと楽しんだらどうですか。そうだ! よければ我輩のオススメの『観光スポット』を紹介しましょう」

「いいです……」

ある理由で日本通のマクベスは気を使うように振る舞うが、クラウスはふてくされた表情浮かべ、初老の大男は何かを見つけたように目を細めてあることを問う。

「……恥じているのですか……?」

「一体なにを……?」

マクベスの問いにとぼけるクラウス。

「その薄い目のクマ。多分それは罪悪感によって眠れなかったんでしょうね……」

「あなたにはわかりませんよ……」

二年前『パラディン』に昇格し、しばらくして内戦が始まり、クラウスは自分がその発端であることを自覚していた。そのことでマクベスが言ったように、自らを攻めていたのを悟っていた。

(この若者は……、愚かなほど優しすぎる。ゆえにこの健気な若者を昇格させるとは、上層部の腐敗は見えているな……)

なにもかも見透かしたかの如く、マクベスは真顔でクラウスの背中を見ながら心の中で呟く。

「着きました。ここがかつて『結城正道』の管轄だった教会です」

目的地に着いたことをマクベスに知らせるクラウス。そこで二人は教会の前に立ち止まり、まず少し様子をみようとする。

「見た目は少し古ボケてはいますね……」

「確かに、でも無理はないですね、なんせこの国が『高度経済成長期』の時代に建てられた物ですから。古いのは当たり前でしょ?」

「ハッハッハッ! そりゃそうですな―――……ん?」

数分間の世間話をした後、マクベスは何らかの気配を感じた様子を見せた。

「どうかしたのですか―――」

「しっ……静かに……!」

「え?」

「静かにしろ」というハンドサインを出したと同時に、突然マクベスはめずらしく真剣な表情をクラウスに見せた。

「何かいるんですか?」

ハンドサインに従って小声で話すクラウス。

「なるほど……。どうやら「何者かがこの町の『結界』を破った」という、『調査班』がぼやいていたことは本当だったと見られますね……」

「そ、それってまさか……!」

同じく小声で話すマクベスはクラウスに対して次のように答える。

「ええ、おそらく『契約者』でしょうね……。ミスター・クラウス。あなたはこの場所から少し離れて、念のために『福音の詠唱』をしていてください。我輩は中を調べてみます」

クラウスは大した『対契約者装備』を持っていなかった為、しょうがなくマクベスは『聖なる十字架の紋章』と『祝福儀礼』が施された『自前のメリケン』を装備し、教会の中に入る。

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