小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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2005年6月27日。月曜日。神奈川。学校。朝。

「もうすぐ6月も終わりか……―――うぅ……」

教室内で一人しかいなかった少年は、世間一般のセリフを口ずさんだ後に、目を細めながら上の天井に視線を向き、うめいていた。

(眠い……)

昨夜は、先月にあの保健室で起きた『秘め事』が脳裏によぎったのを理由に『色欲』に襲われ、まともに眠れず早朝迎えてしまった一人の少年・真堂李玖。もうすぐカレンダーが6月から7月に切り替わることで、夏休み前に始まる『テスト』のことで頭を悩ませていた。

(勉強会でも開こうかな〜)

「ちょっと下郎―――」

「はぁ〜……」

「ちょっと奴隷―――」

「ふ〜……」

「ちょっとクサレ外道―――」

「ん〜……」

「おい童貞!」

「……吉柳院さん……いいかげん名前で呼んでくれませんか。それ以上バージョンアップした言い方されると、マジで怒りますよ……。俺には『真堂李玖』って名前があるんですから」

「なによ? 聞こえてるんじゃない」

しばらくして真堂の横に、あの『秘め事』以降1ヶ月ぶりに姿を見せた『吉柳院友近』。さっきから真堂に対して悪口がこもったあだ名で何回か呼び続け、結果はまるでそれを狙っていたかのように、彼を怒らせる一歩手前にまでに成功させた。

(とても先月、石川さんとイチャイチャしていた人には見えないな……)

「ちょっと、人のこといやらしい目で見てないでくださる。『視姦』されにきたわけじゃなくってよ」

「はあ……一体何の用で?」

自らの肉体的な魅力を自覚したゆえに言った友近。今から怒るのは後にし、真堂は彼女に教室に来た要件を問う。

「『若』は―――」

「ああ……、獅郎はこの時間はいませんよ。深夜ぐらいに寝ている奴だから、学校に来る時はいつも『社長出勤』が常なんですけど……」

慎んだ言葉でしゃべる真堂。

「あら……そう、そこまで堕落しているとわ」

それを聞いた友近は、顔の下から半分を扇子で隠したと同時に真堂から目をそむける。

「は? どういうことですか?」

「あなたが想像していたように、『崇妻家』は日本でも有数な名家ですわ。当然その次期当主ともなる『若』には、早寝早起きは日常茶飯事だったはずが……、『出家』してからそこまで生活態度が落ちているとは驚きですわ」

「あの獅郎が……」

獅郎の『出家前』のことは、あまり詮索しないことにしている真堂。だがそんな欲しい情報を自ら拒んでいるが、こういった状況あるいは機会があれば遠慮なく知ろうとしていた。

「あっ、友ちゃんまた李玖くんいじめてる〜。ダメだよう」

話しの途中で、早い時間に学校に来た石川岬は教室にいた二人を見てから真堂に対し、的外れな言い掛かりをつけているのではないのかと思い、彼女はすぐに友近を注意した。

「あら岬。違うのよ……別にいじめてなんかいないわ。ただこの下郎が、『若』に対して無礼を働かないように言い聞かせていたのですわ」

「そうなの李玖くん?」

「多分……」

少し言い訳染みたことを告げる友近。それを聞きあやしく思えた岬は真堂に問うが、かなりぎこちない返答をされる。

「そうだ石川さん。これ昨日読み終えたやつ―――」

石川が来たことで、真堂はちょうど返そうとしていたマンガ・『閃光のシェザード12巻』を手渡す。

「どうだった!」

手渡す直後、突然『ファン魂』に火がついた石川は、横にいる友近をお構い無しに、真堂に感想を求める。

「そうだな……、勝機がなかったはずのローレシア騎士団領が、多勢だった三帝同盟軍に勝ったことかな―――」

「だよねだよね! かなり強力な三帝同盟軍が、ローレシア騎士団領国内にかなり深くなだれ込んだことで、実はローレシア傘下の国々の軍が内密に包囲されてたんだ! それで圧倒された三帝同盟軍が降伏して、100万人以上の兵を捕虜にすることに成功したんだよね!」

「あれはかなり圧倒されたな……ん?」

「そうそうあとねあとねっ―――」

真堂に対して無我夢中でしゃべる石川。その途中で、真堂はあることにきづく。それは友近が石川に視線を向け、まるで公園で遊ぶ娘を見守る母親のような笑みをこぼしていたのである。

(吉柳院さんは……、本当に石川さんのことが好きなんだな)

真堂は先月保健室で起きたあの『秘め事』が決して遊びではないことを悟り、二人は友情以上の硬い絆で結ばれているのを理解し、彼は友近と同じく思わず笑みを浮かべた。

「あと……、李玖くん?」

「いや、何でもないよ。それでなんだっけ?」

友近のさりげない笑みに見とれていた真堂は途中で集中が途切れてしまい、そのことで石川を妙に感じさせながらも、話しの続きを聞こうとするが―――

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