6月28日。アメリカ。ワシントンDC。元老院の保有する地下施設。盟主の自室。
「春……か……」
先月、何者かに狙撃された元老院幹部・フェルナンド=ハルツェブナクの葬儀を終え、盟主・スティークス=マーロウがその狙撃現場に落ちていたとある『二つ折りの紙』を読みながら、まるで後ろめたいことでもあるかのように未だに持っていた。
コンコン
「……入れ」
「失礼します―――」
そこにドアをノックした後から、礼服に身を包んだ短い白髪の美少年がスティークスの自室に入ってきた。
「ご苦労だったアシュレイ。しばらく休んでいろ」
「はい。スティークス様」
慎ましく命令に従う短い白髪の少年改めアシュレイ。多才な業務をこなす彼の肌は色白で、世の肉食系女子にとっては喉に手が出るくらい欲しがる面持ちをした美少年である。
「あと……、フェルナンドの遺体をちゃんと『ベオグラード』に埋めとくようにしておけ」
アシュレイに同志同然な幹部を、『セルビア』の首都に埋葬するよう手配を命じるスティークス。
「はい―――フェルナンド様は『セルビア』の出身なのですか?」
ちょっとした好奇心で問うているアシュレイだが、実際これは無知によるものだった。実は元老院に入ってまだ『6年』しか起っていないアシュレイ。ある理由で孤児だった彼は組織にひきとられ、特殊能力と幾つかの業務を与えられて今の至る。だがたった数年で組織の全容を知っているわけではなく、こうやってアシュレイは無知な部分を埋める為に、主人に質問しているのであった。
「そうだ。『前の盟主』の時代にフェルナンドは、元はセルビアの秘密組織・『ブラック・ハンド(黒手組)』幹部で、指導者・『アピス』の直属の参謀だった。その時代、わが組織はある『最初で最大の計画』を建てる為に同盟を結び、後に考案を巡らした中で、ただ一人その計画の肉付けをした男でもある」
「なるほど。では『第一次世界大戦』の内容をまとめたの者、それがフェルナンド様の正体ですか」
限りのある情報を頼りに、幹部の一人の知らない真の一面をアシュレイは知る。
「『一次大戦(省略)』―――懐かしいな……、奴は『サライエヴォ事件』という劇薬を世界に飲ませたことで、殺しかけた」
「フェルナンド様の二つ名である『地獄の門を最初に開けた者』の由来はそこでしたか」
「まあそういうことだ。フェルナンドの埋葬は頼んだぞ、あいつの場合『敵国の土の中』になんぞに埋められたくはないと思うからな」
「はっ、必ずやフェルナンド様の遺体を祖国の地に送り届けます。では失礼します―――」
早速セルビア行きの飛行機に乗るためアシュレイは部屋を去り、すぐさま遺体と共に空港に直行するのであった。
「ふん……―――」
自室で一人になった瞬間にしばらく楽にしていると―――
プルルルルップルルルルッ
「な……!」
自室の机に設置してあった電話が突然鳴り出し、スティークスは思わず目を丸くしながら驚いた。なぜならいつもだったら不自由させないように、スティークスからかけてルームサービスを頼むか、ダックマンを呼ぶ為の連絡手段として使われる。そのはずがめずらしく相手方から連絡がきて、今の現状にいたるのだが―――
「………」
この自室の電話番号は、ダックマンを含むごくわずかな人間しか知らないはずなのに、『なぜ今になって』と自問しながらも、冷や汗をかくスティークスは恐る恐る受話器を取った。
ガチャ