小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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2005年6月29日。水曜日。青木精神病院。昼。
(ついに来てしまった……)

おととい姉の言うとおり昼頃に学校を早退した真堂。今は『母・優子』が入院している『病院・青木精神病院』の広場にいた。姉とは目印としてそのど真ん中に建っている、病院の『創設者・青木昭太郎』の銅像で待ち合わせしていた。

「それにしても……、遅いというより、遅すぎる……!」

目印の銅像で待っているのはよかったが、ぎこちない気持ちで病院についたものの、真堂はかれこれ1時間近く姉に待たされていた。

「う〜ん。メールの一つや二つ来てもおかしくないんだけどなあ……」

自分の携帯の画面を確認しても一向にメールか着信がくる気配はなく、ただ銅像の近くで棒立ちするか途中でため息を吐くという、明らかに限られた行動しかとってなかった。

「ん〜……ん!」

姉が来ていないか周辺を見回すと、真堂はあるものを目撃した。それは―――

(あれは、外国の……人かな? なんで『日本の鎧』なんて来てるんだ……?)

真堂がその外人に視線が止まってから遠くを見る。すると、かなり古風な『日本の鎧』を全身に着た外人が、道のど真ん中で堂々と歩いていたのがわかった。

「恥ずかしくないのか……ん―――うわっこっち来た!」

視線に気づいたのか、外人がヅカヅカと地鳴りを起こすかのような早歩きをし、真堂に近づいてきた。

(え、ええ! デカ!)

遠くて詳しい体型まで認識できなかったこともあり、近づいてきた外人が予想よりはるかに越えた巨漢の持ち主だった。

「そこの少年! 少し聞きたい事があるのだが」

「ヒィッ!」

あまりに非常識な身なりと2メートル以上もの背丈をしていることで、真堂は驚くと同時に怯える。

「この近くで、清潔な髪型(短髪)をしてて、金髪の成人の神父を見かけなかったかね?」

「し、知りません!」

「ん? ハッハッハッ! そう驚くではない。我輩は列記とした『神父』である」

「は……?」

外人の言ったセリフを聞いたとたん、真堂は怯えるのをやめて唖然とした。

「まあ、こんな格好で『神父』だなんて非常識だとは思いますが、我輩の名はマクベス、マクベス=アームフェルトであります」

自己紹介した巨漢の外人改めその正体は、『ミセリコルディア財団』公認の東方遠征中の『パラディン』・マクベス=アームフェルトだった。

「はあ……、マクベスさんですか、その……なにゆえ神父がサムライのかっこうなど?」

そして今の真堂はこの非常識な状況の真意を、目前の自称神父を名乗る(実際は神父)初老の男に慎重に問う。

「はて? なにか違いましたかな? 一応今の『日本文化』にならってやっていることなんですが」

「いやいやいや! 今の日本文化で堂々と鎧を着ている人なんていませんから!」

マクベスのやっていることに断固として否定する真堂。

「なんですと! これは日本文化の『コスプレ』というものではないのですか!」

「思いっ切りやる所間違えてますよね! しかもそんな道中で『サムライ』の格好しているなんて、『戦国時代』くらいですよ!」

並大抵のツッコミをする真堂。一方どこか抜けた行動していたことに、自覚と同時に驚いたマクベス。すると―――

「これはサムライでもただのサムライではありません! 我輩のこの格好は『平清盛』のコスプレであります!」

「たいらのきよもり?」

見た目ではただの武士の仮装にみえるが、実際マクベスの格好はある『歴史の偉人』を真似て表したものだった。

「むむ? やはり一般の者にはあまり知れ渡ってはいないようですな。いいですかな少年。『平清盛』とは武士がまだ下級貴族の時代に、並の武士でありながら多くの功績をたて、ついには国のてっぺんまで登り詰めた、我輩がもっとも憧れる『歴史の偉人達』の一人なのです!」

自ら偉人を真似た格好を自慢するマクベス。だが真堂にとってはあまり知らない偉人だった為、ただ「はあ……」と、ありきたりな返答しかできなかった。

「―――あ、いた! マクベス神父ー! そんなかっこうでなにやっているんですか!」

しばらく真堂はマクベスの自慢を聞いていると、急に向こうに近づきながら青年が声をかける。

「むむ! あれはミスター・クラウス。少年、どうやら我輩が探していた『連れ』が見つかったようだ」

その青年改めマクベスと同じく日本に滞在するクラウス=フォルタニカだった。声をかけられた直後に、向こうのクラウスは大きく片手を振り、その方向にいる二人は同時に視線を向ける。

「あの人ですか?」

「うむ。少年、こんな老いぼれの相手をしてくれて感謝する。我輩はもう行くが、今度会うときはティー(紅茶)でも一杯交わそうぞ。ハッハッハッ!」

間違ったような古い日本語で話したマクベスは、探していた人物を見つけたところで、豪快な笑い声を出しながらその場を立ち去った。

「―――変な人……」

立ち去ったマクベスを少し『変わった迷子』と判断しながら、真堂は誰もがいいそうな一般的な言葉を口ずさんだ。

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