数分後。
「ごっめーん! 李っちゃん待った〜?」
やっとのことで来た『姉・智美』。一方待たされた真堂はかなり不機嫌な表情を浮かべながら、姉を迎える。
「……なんで遅れたの?」
冷めた眼差しで真堂は姉に遅れたの理由を問う。
「うふふ〜、よくぞ聞いてくれました。実はね―――」
(いやな予感……)
「逆ナンさーれたーのだ〜!」
(やっぱり……)
智美が何時間も弟を待たせた理由は、病院に行く途中で見知らぬ男性にお茶に誘われて、真堂をほったらかしにしながら、そのまま遊んでいたのであった。
「いや〜、そのナンパしてきた人が私好みのイケメンだったから、つい誘いに乗っちゃってさ〜―――」
「………」
「おまけにすごいお金持ちで紳士だし、結構その人の虜になっちゃって―――」
「………」
「あまりにも気が合うから、ホテルでよろしくヤっちゃいました!」
謝罪もせず、あげくのはてには自慢するような姉の不謹慎な態度に真堂は―――
「ん、李っちゃん……?」
「姉さん……頭にゴミついてるよ……」
「え、どこどこ?」
急に落ち着いた面持ちと態度で姉に対して気を使う真堂に、智美は頭の上をさらしから―――
「……取るよ―――」
ゴスッ!
そのまた数分後。
「李っちゃん。「ごめん」って言ってんじゃん」
「………」
待ち合わせをした時に、真堂は姉を不意討ちで頭を殴りつけた後に、病院内の面会の受付を済ませ、母がいる病室に続く廊下を歩いていた。
「イテテテ……、なにも殴ることないでしょ〜」
真堂に殴れた時にできた『コブ』に手を添えながら歩く智美。
「いや、あれは明らかに『自業自得』でしょうが!」
智美自信が弁解できる立場ではないことを告げる真堂。かなり拍子抜けしたイラ立ちの末、ついに母のいる病室の前に着いた。
「………」
病室の扉を目前にして黙り込む真堂は、過去に母から拒絶された時の光景を脳裏によぎらせ、その扉を開けるか開けまいか今頃になって迷い始めた。
「李っちゃん。あたしが開けようか……?」
しばらく立ち止まっている真堂に対し、『葛藤』をしていることを悟った智美は、緊張をほぐすかのように肩に手を触れる。
「いいよ姉さん……。いつまでも会わないわけにはいかないからさ……」
真堂は(またあの時のように拒絶されるのではないか?)と、心の中でそう自問する。その理由は過去に母である優子に、真堂は素手で『絞殺』しかけられたことがあり、それいらい数年間『面会謝絶』されていたが、それから主治医の判断で面会が出来るように連絡があって、今のような状況に至る。
(……よし!)
ガラガラ
覚悟を決めた真堂は扉を開けた。
「うっ……!」
病室の中は『窓に射す日光』に満たされていた為に視界が一時遮られた。が、数秒で目が慣れ始めた真堂は信じられないものを目撃した。
「かあさん……!」