小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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(母さんが……)

一つのかなわないと願いをもった少年・真堂李玖は、病室にいた母の姿を目撃したことで、過去に母がやってきた仕打ちに関連する全ての記憶が、風化し始めた。

(―――笑ってる)

唖然としながら真堂が目にしたもは―――4年ぶりの母の無邪気な笑顔だった。4年前、父を亡くしてから数ヶ月後に見た時の母の姿は、『鬱』によって心身を犯されたせいで、体型はやせほそり、顔はまるで生起を失いかけたような面持ちをしていた。だが今の真堂から見た母の姿は、まるでそれが今まで嘘だったかのように、すっかり元気でいた。

「あら、李玖……なの?」

しばらくしてから真堂のいる方に振り向いた優子は、4年ぶりにあった息子がいまだにめんくらった表情をしたままだった為か、疑問形混じりの言い方で訪ねた。
それはよかったが一般的に唯一あやしい点は、真堂に対しての穏やかな態度と優しい口調からして、まるで優子はいままで息子にやってきた『仕打ち』を、キレイさっぱり忘れたかのような振る舞いをしていたことである。だが、母の心身が完治の風潮という絶え間ない安堵のせいか、そんな細かいことを微塵も感じず、沈黙していた真堂は「なにか話さねば」と使命感を元に口を開く。

「あ……久しぶり母さ―――」

「おや? 私の他にも来客かい」

「え……!」

少し行き詰まった口調で母に挨拶をしようとしたが、優子にだけ注目していたせいか、病室にいた先客に気づかず、真堂は以外に感じながらも目を丸くして重ね重ね驚く。

「ほら、いつまでもそこにいないで入った入った」

「ちょっ―――」

そこに真堂の後ろにいた智美が、いつまでも中に入らない弟の背中を押し、それから病室に入った。

「元気そうねお母さん。私達のことわかる?」

何年も会っていなかったのを理由に、智美は母に成長して変わった自分達がわかるか確認をとる。

「フフフ……もちろん分かるわ。智美と李玖でしょ、よく来たわね」

くすぐられたかのように笑みをこぼし、二人が来たことを歓迎する優子。

「今日はね、主治医の人からお母さんの容態が安定してきたって連絡が会ったから、あたし達お見舞いに来たんだ」

見舞いに来た理由を話した智美。

「あらそうなの、ありがとうね二人とも」

(母さん……)

事前に感じていた嫌な予感ははずれたことで、母がまともにしゃべれるのを確認した真堂はさらに安堵した。

「………」

「あの……お母さん。近くにいるその外人はだれ?」

それから智美が、母の近くでさっきから黙って座っている先客を誰だか訪ねる。

「覚えてないの? まあ無理もないわね、あの時はまだあなたが小さい頃だったから」

過去を振り替える言い様で優子は智美に告げる。

「……どこかでお会いしましたっけ?」

「……ん? おやおやもう家族の話はおしまいかい? 久しぶりだね智美ちゃん。やっぱり私のことは覚えていないかい?」

しばらく黙っていたのは空気を読んでいた為か、訪ねられた先客の男は逆に智美に訪ねる。

「すいません……」

「アハハハ。あれから数回しか会ったことないから無理ないさ」

親近感を湧かせる穏やかな口調で話す先客の男。彼の容姿はバランスのいいシックなグレーで彩られたアルマーニのスーツを着こなしていた。そして個性を表すような群青色のシルクでできたネクタイを締めていて、中年であるが為か白髪混じりの金髪に、失明しているのか片方の目を閉じていた。

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