小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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ロギアと共に真堂の両親がまだ十代の頃。50年代後半の戦後の日本でロギアは、娼婦とドイツ系アメリカ人兵士の間で生まれたハーフだった。

 その当時の日本は『GHQ』占領下にあって、まだ貧困に喘いでいた時代に、娼婦だった母親が収入を得る為、父親と見られる米兵に身売りした結果ロギアが誕生。

 しばらく母親に育てられていたが、当時腹を痛めて生んだ実の息子にも関わらず名前も付けていなく一年も満たない内に、厳しい生活と親としての相当のプレッシャーを原因に自殺。

 それから名も無き赤ん坊で身寄りがいなくなったロギアは、間も無くして『神奈川県・大磯町』にある、混血児を専門に引き取る『児童養護施設・エリザベスサンダースホーム』に移住し、日本名で『朗練(ろうれん)』と名付けられた。

 数年後に物心ついた年になると、自ら不幸な身の上を呪いながら他者との関わりを一切持たず、友と言える人間が一人もいなかった。

 だがそんな日々も束の間、近所に住んでいた同年代の男女・創一と優子の出会いよって、薄暗かった人生に転機が訪れる。

 それはロギアの人生で初めて『友人』ができたのである。

 ロギアはその二人と数年を過ごし毎日のように遊び、しばらくして彼が15齢を迎えると、エリザベスサンダースホームの協力者の一人で、まだ中小企業だったアルスターカンパニーを束ねていた初代社長・ウィリアム・ギア=アルスター2世に、子宝に恵まれ無かったのを理由に引き取られ、アルスター家の養子なった。

 そのことで『朗練』から『ローレン』に名を改め、アメリカに移住してキャリアを積み重ねた結果ロギアは、優秀な経営者として出来上がったことで会社を継ぎ、後に今に至る大企業を束ねる社長になったのである。

(そうか、この人も一度『帰る場所』を無くしているんだ……)

父をテロで亡くし、母に大いに拒絶されていた。真堂にとってそれは『帰る場所』を亡くしたも同然のことで、自分とロギアは幼い頃に、お互い過去に見えない傷を負った境遇なのだと知った。

「―――本当に懐かしいな。おっといけない、そろそろ重役との会談の時間だな。すまない優子、この話はまた今度にしてくれ」

仕事の合間に見舞いに来たらしく会話を中断してロギアは、予定していた会談に行く為に一度チェックインした近くのホテルに戻ろうとする。

「あら、残念ね……」

「次来る時は、なにか持ってくるから勘弁しておくれよ」

二人の会話を見ていた真堂は、ある光景が一瞬だけ脳裏を過った。

(似てる……。あの時の母さんや父さんと―――)

真堂の目に写る二人が会話している微笑ましい光景は、以前にもどこかで見たことがあった。あれはいつか真堂の父・創一が久し振りに家族全員で朝食を食べていた時に、両親共に長く離れていたにも関わらず、互いを労い慈しむように交わした会話があったという。

(そんなことも……あったけな)

(この二人。ちょっとあやしいな……)

そんなことを思い出す真堂とは別に智美は、二人の会話からして実は父の友人でもあるロギアは、母にとってそれ以上つまりは恋人でもあったのではないのかと、突発ながら思考を巡らせた。

「次はちゃんとした休暇をとってまた来るよ。それじゃっ!」

そうしている間にロギアは病室を去り、残りの仕事をかたづけに行ったのであった。

「ロレン……行ってしまったわね……」

「お母さん」

(母さん。そんなにロレンさんことを……)

まるで大切なオモチャを無くした子供のような母の様子に、見舞いきた息子と娘である二人は、優子にとってロギアの存在は父・創一と同様に大きかった。それゆえにこれからの母の精神的回復の見込みを、大きく左右してしまうことを痛感したのである。

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