小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

2005年7月3日。日曜日。教会。夕方。

「……なあ獅郎」

「んだよチャラ助。つうか下の名前で呼ぶな」

「え〜」

「………」

偶像崇拝の為のブロンズ像が壊れた教会の中。ミサといった複数の信者が座りながら祈る横長イスで不意に黄昏る、仲の悪い喪服(もふく)を着た二人の少年達と、同じく喪服をきていて体育座りをしながら、だまってうつむく一人の少女がいた。

「ただでさえ葬式の後で、辛気くせえっつうのによ……」

「岬ちゃんどうして……あんな……」

「岬……」

教会にいる三人の名は崇妻獅郎、神崎洵、吉柳院友近である。彼らはおとといの早朝に亡くなった少女・『石川岬』の葬式を終えて友近を除く二人は、すっかり馴染みの場所となった教会もとい『ミセリコルディア財団日本支部』にいた。このあと他に用事もない三人は、2時間ぐらいか精神的な休息をとり落ち込んでいた。
なぜ今こんな状況になっているのか、それは時をさかのぼること4時間前―――石川の葬式は昼半ばに自宅で行われた。葬式には学校の職員、石川の同級生、財団の関係者、数人の刑事、親戚一同といった多くの人達が参加し、誰もが石川の死を悲しみいたわった。
当然そこには、『石川』という数少ない友人を失った少年・真堂もそこにいた。
葬式が行われた2時間もの流れの状況は、とても沈黙を守り通せるようなものではなかった。石川の死因は自室のベッドで手首の動脈をカッターで切った『リストカット』であった。当然十代という若さで亡くなった影響も強く、参加者の半分は大粒の涙を落としながら嘆いていたという。
一方で友達以上に石川とは一番親密な関係だったはずの友近は、他の嘆いている人達と比べてなぜか深く黙りこんでいた。その様子を見ていた真堂には彼女が強がっているようにも思えたが、実際はかなりめいっていることは悟れた。
しばらくした後に葬式の幾つかの行事が済んでから終了し、参加者は財団の関係者と数人の刑事を石川の自宅に残した状態で解散した。
参加した石川の同級生達は、ある4人を除いてみな帰宅した。その4人とは石川の死を最も重く受け止めていた友人である真堂、神崎、獅郎、友近だった。お互いとても一人でいたい気分ではなかった為に、全員は自宅以外で心身を癒そうと、どこか一番涼しい場所で休むことに決め、行き着いたところが教会だ。この教会は不思議と自然に涼むことができ、それによりよく猫が集まるたまり場として、一年前を境に町ではよく知られた『癒しスポット』のような所になっていた。しばらくして休息をとっていると、4人中1人である真堂は教会を後に突然散歩に出かけ、他の3人は留まった状態で今に至るのである。

「なあ友近よ。なんであん時に泣かなかったんだ? 強がっているようには見えなかったが、おまえあいつとは結構なかよかったんじゃなかったのか?」

「ちょいちょい! いきなりそんな質問はないんじゃないの獅郎」

「うるせえな、あと下の名前で呼ぶな!」

あからさまに不器用な言い方で質問したその矢先、あまりの問いの非常識さに神崎が横から口を挟んできたが、難なく獅郎ははねのけ友近に話を聞こうとする。

「若は……、私(わたくし)が吉柳院家の次期当主であることはご存知ですわよね」

「おう……それがどうした? まさか「安く見られたくないから」とか『バカ』なこと言うんじゃねえだろうな」

「はい」

「……バカだな」

「ちょい獅郎!」

強がっているのを明確にした友近の返答に、獅郎は単純にその答えを大いに否定した。後から非常識なことだとわかっていて、それでも聞き捨てできなかった神崎はまた意義を唱えるが、急に立ち上がり友近に近づく獅郎は当然のように無視した。

「バカだ。それも相当な大バカだ。いいか友近。葬式ってのは、無礼講で泣いてなんぼだ。家柄や誇りがどうとかも関係なく、あらゆる物に縛されずに涙を流すことが、一番の死者えの礼儀なんだぜ。しょせん亡くなった奴に対しては、そうやることしかできない。今のいままで世話になった奴に対して、感謝の思いを伝える最後の手段でもある。だからおまえはあいつの為に泣いてやれ、いや……もはや泣け」

「若……私は……私はあの子があんな最後を迎えるなんて……、うっ……うぅ……」

この時、無理に強がって泣こうとしない友近の為に獅郎は、頭を撫でながら少し不器用な言い様ではあるが、精神的な悔しさを吐き出させることに成功した。

(途中まではよかったけど、最後のセリフはないな……)

そんな二人を見ていた神崎は、心の中で獅郎が言ったセリフのダメ出しを呟いた。

一方、散歩に行ったまま戻って来ない真堂は―――

-162-
Copyright ©デニス All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える