小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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同日。ラブホテル・ポンパドール。最上階702号室。夜。

(なぜ、こんな事になったんだ……)

神奈川で一番の安さと充実した設備が売りのここラブホテル・ポンパドール。そして宿屋ではどこにでも置いてある寝具・ダブルベッドの隅に、一人の若い神父がそこに腰掛け、腹痛を訴えるような表情を浮かべながら、あることボヤいていた。

(俺……神父なんだけどな……)

本当であればタテマエであっても常に純潔を厳守する聖職者が、それを散らす宿屋に泊まるなどもってのほか。かなり非常識であると同じく禁忌にも近かった。

「ハッハッハッハ! いやー、ミスター・クラウス、我輩が以前来たよりもかなり充実した浴室でしたぞ。あなたもそこで瞑想なんてしていないで、あなたも入ったらどうです」

浴室でシャワーを浴び終えてから寝室に入り、高笑いしながら唐突にクラウス=フォルタニカに問いかける巨漢の男。ちなみに風呂上りの為にその姿は、下半身丸出しのままでバスタオルを上半身に巻いている。一見非常識にも思えるが、男にとってその姿は個人的なフリースタイルでもあった。

「以前って、マクベス神父はここに来たことがあるんですか? というか……下の方は隠してくれません」

「ハッハッハッハ! よくぞ聞いてくれた。ここは我輩と妻が初めて、お互いの愛を確かめ会い育み会った場所なのであります!」

「は、はあ……」

その問いに既婚者であったマクベスは、過去に初めて恋花(こいばな)を満開にしたことを告げる。すると呆れた様子でそれを聞いたクラウスだった。しかしその直後、巨漢の男に告げられた生々しい内容を一瞬でも想像したせいか、彼は虫歯の痛みにでも訴えるかのようにひきつった表情を浮かべる。

「しかもここ『ポンパドール』では『教団』の傘下に入っているところなので、我らにはかなりの待遇をしてくれるのですよ。いやー快適快適、ハッハッハッハ!」

「『教団』って……、ここラブホテルですよ!」

あえて清楚さを重んじているのが色濃い『ミセリコルディア教団』。それに対して、裏稼業というイメージが強い『ラブホテル』を拠点の一つにしているという、的外れな意外性を感じながらも驚くクラウス。

「一応『教団』には日本の『少子化対策』の一貫として、ミス・ホリーに粘りに粘った交渉した結果。我輩の話を理解した上で、こころよく了承してくださったのだ」

(渋々了承したの間違えじゃないのか?)

新世紀を迎えてかれこれ4年起つここ日本では、若者の人口が減り高齢者の人口が増えている。いわゆる少子化を迎えつつあった。

「いやはや、あの時は高官達を説得するのには苦労しましたぞ。ハッハッハッハッ!」

(こんな時に本部が滞在予算をケチんなきゃ、こんな事にはなかったのに……)

ハープメイ捜索及び討伐の為の日本に着いてから(東方遠征)およそ2ヶ月たち、その時に二人は滞在するからには当然安定した予算でいた。だがそれは前半の話で後半に入ってからは、ある事情で『財団』の内戦が緊張を増したのをきっかけに、総本山が出していた滞在費が激減し、ついにはまともな宿がとれない状態に陥っていた。

「まあそうピリピリなさるな。タダで泊まらせてくれていますので、節約ぐらいなるのはありがたいことでしょう?」

「それはいいですけど、あなたはまず男が二人でラブホテルの一室にいる事にはなにかしら抵抗はないのですか?」

残り少ない滞在費を浮かせられる事実を述べたマクベス。それはよかったものの、クラウスは顔を青ざめさせながら、今この状況からして最も疑問に思うことを口にした。

「ハッハッハッハ! ミスター・クラウス。いつまでもそんな小さいことを考えては、『ハープメイの捜索』の効率が悪くなるだけでありますぞ」

「はあ……、そういうものなんでしょうか」

「無論であります!」

持ち前のずば抜けたプラス思考あってのマクベスの態度に、呆けた心情で渋々納得したクラウスだった。

「―――そうだ。まだマクベス神父が入浴してた時に、なんか『届け物』があったんですけど」

「ぬぬっ? 『届け物』ですと!」

「これは一体なんなんですか?」

不思議そうに言いながらクラウスは、届けられたとされる縦長のダンボール箱をマクベスに見せる。

「おー! やっと届きましたか! ミスター・クラウス、これはあなた宛の物であります」

「おれ……じゃなかった。私にですか? というよりも早く服着てください」

「うむ。では我輩は着替えてくるので、ミスター・クラウスはその荷の中身でも拝見してくだされ」

やっと言うことを聞いて着替えをしに行ったマクベス。その間にクラウスは、届けられた縦長のダンボール箱の中身を開けた。

「どれどれ―――こ、これは!」

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