小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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7月4日。月曜日。アメリカ。バージニア州アーリントン。国防総省(ペンタゴン)。客室。

超大国の守りを多くを担う『国防総省』。建物の巨大な五角形の形を大きな特徴としたことで、またの名を『ペンタゴン』と呼ばれる。文字通り国防や軍事関係の仕事を扱い、およそ200万人以上の職員を保有する、『アメリカ合衆国』国内の最大規模を誇る国家機関である。

「あの……もしかして長官はまだ出勤されてないのですか?」

そこに一人の大企業の社長が国防長官に招かれ、かれこれ30分近く客室で待たされていた。

「申し訳ございませんアルスター様。もうすぐ長官が参られると思いますので、少々お待ちください」

国防総省に招かれ、いつでもどこでも片目を閉じ、ソファーに腰かけるアルスターカンパニー社長・ロギア。彼は紅茶を出してくれた女性職員に、呼び出した本人である長官の所在を問う。

(おかしい……。先月会った時は、こんなに待たせられなかったんだが……)

だが気休めな返答しかされず、長官とは何度か面識があるロギアは当たり前の疑問を心の中で呟き、職員が客室から去った後に再び待たされる。

ガチャッ

「パットンちょう……かん?」

長官本人がやっと来たかと思い立ち上がったロギアは、ドアが開かられた方向に視線を移した。だが―――

「いや〜、遅れてしまって誠に申し訳ない」

「………」

客室に来たのはレオナルド=パットン国防長官(現役)ではなかった。社交性に大いに欠ける失礼な態度で入ってきた謎の男。その容姿は、白いタテ線の模様で覆われる黒いスーツを着こなし、赤い瞳で素肌は異常に白く、髪は赤毛のオールバックでいた。

「いやはや、ここに来るついでに組織の不穏分子を片付けるのに、いささか手こずりましてな」

男はジョークでも言うように笑みを浮かべているが、目はまったく笑ってはなく、そのまま真っ直ぐな眼差しでいた。

「組織? というと貴様は『元老院』の……まさか長官を―――」

「いえいえ心配には及びません。長官は『ワシントンDC』に出張で、まだピンピンしていますよ」

拍子抜けしたように男が元老院の使者の一人と分かったことで、ロギアは国防長官を暗殺したのかと探りを入れる。たがそうではなく、呼び出した本人が実は不在だったという妙な展開になった。

「そんなはずはない。元に私は長官本人から呼び出されて、ここにきたんだぞ!」

「そうですね……この時間だと、『ホワイトハウス』での会議に出席している頃でしょうな。長官には私から頼んで『嘘』をついてもらいました」

「なに……!」

反省した素振りもなく、嘘をつかせて招いたことを軽々しく告げる赤毛の男。多忙なロギアを国防総省に招く為の策として、おそらく「長官になんらかの圧力がかけたのではないのか?」と、想定した考えを頭の中で巡らせながら、赤毛の男に対してロギアは少しずつイラだった表情を見せる。

「あそうそう自己紹介が遅れました。私はアラン=ゲイブリルともうします。以後お見知りおきを」

「アラン? では2ヶ月前、神崎の所(日本支社)に来た元老院の『赤い使者』か」

赤毛の男改めアラン=ゲイブリルは自己紹介が終えたところで、ロギアの向かい合わせにあるもうひとつのソファーに座る。

「一応、盟主様からそれなりの大きな権限を与えられています。だからいろいろと小細工は可能なのですよ」

(まさか長官にこんなことをさせるとはな。神崎の言う通り、やはり『元老院』がペンタゴンを勢力範囲に治めているのは間違いないか……)

超大国・アメリカの攻守あるいは威厳を示すには必須である軍事。その半分弱を勢力の一部として治めている『元老院』に対し、同盟関係とはいえまたもや危機感をつのらせるロギア。

「ヌッフフフ……」

一方で、一つの顔の部位に限られた笑みを浮かべるアランの話をそのまま聞く。

「で、そんなやつがわざわざその小細工とやらを使って、私を招いた理由はなんだ? まさかただのイタズラなんて言うまい」

「そこまで落ちぶれた覚えはありませんが、私はただ与えられた義務を果たしに来ただけです」

自らの主人の命令に従っていることには変わりなく、ムダな言い回しでアランは妙なことを口にする

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