小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「何が言いたい?」

「貴方の手駒である『ハープメイ』の情報を財団にリークしました」

「な、貴様!」

アランの一言に怒りを覚えるロギア。先日、中級契約者・ハープメイの討伐の為に、日本に滞在していた二人の『パラディン』・マクベスとクラウスが『観測班』から受けとった正確な情報は、実はアランが故意に流した物だった。
ちなみにアラン本人は持ち前の情報操作で、流失させたとされるそのハープメイに関する情報は、出所がバレないように財団に流した物である。

「安心してくだい。流した情報は居所だけですから、あなたに不利になる情報は一切含まれていません」

「当たり前だ! なぜそんな余計なことをした!」

当然勝手に嘘をついてまで呼び出され、あげくのはてには個人的な仕事を妨害する行動にロギアはすぐに立ち上がり、アランを怒鳴りつけた後に余計な真似をした真意を問う。

「さっきも言ったように、私はただ与えられた『義務』を果たしただけです。大体貴方には人を見る目があっても契約者を見る目がないから、しょうがなくこちらから先手をうたせていただいたのですよ」

咎めたはずのアランにロギアは逆に咎められてしまった。

「………」

口を閉ざすロギア。事実その内容に対して反論しようにもできずにいた。契約者というのは扱いによっては、暗殺や諜報に関しての大きな利益を得られる可能性が高い。それゆえに犯罪組織(マフィア)・テロ組織にとっては、喉に手が出るくらいの貴重な人材でもあった。だが悪魔事態を扱っている事には変わりなく、そもそも性格に問題がある。その為に、まず人間が効率的に利用することはかなり難しくあり、戦術価値に乏しい面があった。

「教団がハープメイとあなたの関係のことをしれば、真っ先にアルスターカンパニーが処分されるでしょうな。そして当然次はこちらにも『飛び火』します」

「………」

アランの説教じみた説明を黙って聞くロギア。人類にとって当然害をもたらす契約者。そのことで『ミセリコルディア教団』は『最重要危険因子』としてみていた為に、契約者と関係を持った大体の組織は徹底的に壊滅されていた。
それを知った上で、やっと手に入れた少ない手駒である『ハープメイ』を、ある方法で従わせていたロギア。それに対して、仕えている『元老院』に害を及ぼすことを悟ったアランは、すぐに行動に移り今に至るのであった。

「それに話によると、ずば抜けて性格に問題があるというではありませんか。身の回りを掃除をするのは結構ですが、人に迷惑をかけるのには勘弁してもらいたいですな。あなたはまず一大組織を統べる人間として、同盟をもっと強固なものにしたいならもっと気を付けてください」

(この口振りだと、やつらはまだ私の『正体』には気づいてはいないようだな。『奥の手』を使うのはまだ先か……)

どうやら今回のアランの用事はただの注意だと悟ったロギアは、なにか個人的な『秘密』を抱えながらも心の中で呟く。

「ヌッフフフ……一応言っておきますが、この件に関しては盟主様はお怒りでいらっしゃいます。それに『アルマゲスト・ロゴス』に支障をきたすとすれば、それはもうカンカンでしたね」

「わ、わかりました……。『ハープメイ』はそちらに処分におまかせする。この先一切このようなことがないよう善処いたします。それとできればあなたから『マーロウ氏』に、そのお怒りを静めるよう取り計らってくだされば助かります」

深夜から早朝を迎えたかの如く、今この場で互いの上下関係がはっきりした。そのことで自らの失態及び立場が明確に知れたことで、ロギアはアランに平伏(へいふく)し、同時に数滴の冷や汗を流しながら許しをこう。

「素直でよろしい。あまり頼りにされても面倒ですが、いいでしょう。盟主様にはなんとか私なりのフォローを見当してみましょう」

「は。いきなりだったとはいえ、先ほどの不敬な言動お許しください。その代わり今後とも『あれの開発』には、社員共々あなたがた組織のご依頼どおりの物を作ってみせます」

1年前。元老院に依頼されたことを謝罪のつもりで改めて達成させることを約束し、どうにか許してもらう為にロギアは躍起になる。

「頼みますよ。一応アルスターカンパニーの技術を見込んでの同盟なのですから、さっさと『約束の期限』には完成さしてもらいますよ」

アランのタメ口と敬語を混ぜた言動にため息を覚えるロギアだが、それでも下手にでることには変わらなかった。

「その『約束の期限』ですが、5年よりわずか3年で完成させます」

同盟を結んだばかりの頃。アルスターカンパニーの技術だけで進める場合だと5年はかかる予定だったが、元老院の本格的な協力によって、予定期限である5年より3年に短縮することに成功していた。

「なるほど……、我が組織の技術提供のタマモノですな。伝えたいことは済ませたので、私はここでおいとまさせていただきます。まあ、とりあえずがんばってくださいな。ヌフフ……」

ガチャ

「………」

独り言のような口振りでアランは客室を去り、一方で下手に出ていたロギアはその場に置き去りにされた。しばらくした後、元の業務に戻る為に一大企業の社長は、冷酷な表情のままで国防総省を出る。
このことでロギア個人は『元老院』を改めて危険視するきっかけが産まれ、互いが対等な立場ではないことを痛感されたのであった。そして翌日、ロギアの自宅に国防長官から謝罪の電話が来たという。
そして当然ハープメイはこの事を知らない―――

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