同日。JR辻堂駅近辺。夕方。
「ハァ〜……なんでこんなことを……俺が」
『能力』についてなにも分からずにもうすぐ夜が近づこうとするところ、真堂は深く大きなため息をしながら、ある野暮用を済ませよとしていた。
「相変わらず手のかかる姉貴めぇ……」
その野暮用の関係で涙ぐむ真堂。なぜわざわざ辻堂まで来たのか、それは姉の智美に原因があった。
数時間前。真堂が自宅に帰ってから急に家の電話が鳴り始め、受話器を片手に出てみると、相手は辻堂に住んでいる智美の大学の後輩だった。不思議そうに真堂はその姉の後輩に、わざわざ家にかけてきた理由を問いたところ。どうやら姉は後輩の家に遊びに来てそうそうに酒に酔い、乱痴気騒ぎという多大な迷惑をかけたという。
「ちきしょうめ……、一体どこまで面倒かける気だよ……」
ボヤきにボヤく様子の真堂。
そのことを聞き、顔を青ざめさせながら「すぐに迎えに行きます!」と受話器をしまい、着替えてから家を出て行き今に至るのであった。
「弟としてこんなに悲しい事はないよまったく!」
周りに誰もいないことをよしに大きな声でさらにボヤく真堂。
「しっかしな〜。デカイ建物あるのに以外と風強いな……ん!」
歩行中の真堂は初めて辻堂に来た感想を述べた。今いる駅近辺には、幾つかの建設中の建物がある。それにより彼は途中で断念された幾つかの建物はともかく、急な強い風が吹く要因として広がる広大な跡地に驚いていた。
「ひっろいな〜……」
ちなみに真堂が視線を向けている広大な跡地。ここは4年前、東北の代表する有力企業・『岩沼重工』が、関東浸出の足掛かりとして買い上げた土地であった。だがもうすぐ支社の工事が始まろうとした直前、先代の社長が急病をわずらったのを理由に、息子による世代交代によって先送りにされた。そのことであの跡地は、未だにほったらかしの状態になっていたである。
「え……と、たしか住所によればここらへんだよな?」
住所が書いてあるメモを片手に真堂は住宅街に入り、姉の後輩が住んでいると思われるアパートを探すが、今は数件ほど同じような建物があることでいささか迷っていた。
「ん〜……ん……!」
通りがかりの人に聞こうとこまめに左右を確認するが、周りにはだれもいない。そこで妙に人気がないことに気づく真堂は再度辺りをくまなく見る。すると一瞬だが真堂の視線の向こうに、街灯に照らされた一つの人影を目撃する。
「あのすいま―――え……あれって?」
目撃した方向に急いで向かい、真堂は道を聞こうと引き止めるが途中で走るのをやめた。なぜなら近づいていくうちに目が夜に慣れてきたこともあり、人影の正体がはっきりと分かったからである。