小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「我らパラディンは『聖なる騎士』といえど、元は普通の人間には変わりはありません。ですが騎士になったからには、仕える君主あるいはそれに近い者を守ってこそ我らの『道』。よって教皇様や高官達を守るのが本来の主な責務のはずですが、正直それだけではダメなのです。我らパラディン及び財団は、貧困に喘ぎ助けを求める人々や、邪な者達(悪魔)によって犯されつつある人々を救済し、その上で尊徳に習ってこその『真の責務』だと、自分は思うのです」

自らの大志を長く説いたフランツ。並みの人間が聞けばかなり青臭いように感じる。だがそれと同じ類(たぐい)の大志を抱くホリーにとって、あまり表には出さないが、かなりの感銘を受けるものとなる。

(あの眼差しは……―――)

フランツが自らの意思を説いたことで、切り替えたのは表情だけではなかった。ホリーが感銘を受けた理由の一つであり、説得力を一気に向上させたのは、彼女と同じ視線でありながら、一切微動だにしないフランツのその眼差しにあった。
まるでフランツの瞳の奥底には、噴火直前の山の頂(いただき)からに漏れだす熱気の如く、いままでため込んだ執念が破裂しそうになるが、悲願の為に耐えに耐えている様子が伺える。それにより子供が夜空の流れ星に願うような、決して生半可な望みではないことを表していた。

(―――かつてのお母様と同じ、あの目!)

そのことで過去にホリーの母がまだ健在だった頃、今のフランツと同じ眼差しをしていたという。
結果的に彼はホリーに、自らの望みを死んでも叶わせる覚悟を持っているのを悟らせた。

「そこでホリー様……なぜ私がこのような事を説いたのか、分かりますか?」

「え……はっ! い、いいえ……」

フランツのあまりの真剣な眼差しに気を取られていたせいか、ホリーは質問をされてから遅れて返答した。

「先日自分は、長期間の『東方遠征』から帰還したマクベス=アームフェルトが、総本山に提出した報告書を拝読しました」

「な! ではあの事はもう……」

「はい―――」

そのフランツが見たとされる報告書は、2日前。日本での契約者(悪魔)の討伐任務・『東方遠征』を行う中で、マクベスが今の権力闘争に関係するある出来事をつづった物だった。その為、フランツはその報告書にかなりの影響を受けたことを理由に、この会談を設け今に至り、彼はホリーに本題を告げる。

「―――ですから自分は、ただちにこの権力争いの早期終結を計ろうと思います」

「できるというのですか!」

本題が急な事の為に少し疑惑を抱いたホリーは、面食らった表情でフランツに問いただす。

「もちろんです。そこで……ホリー様にはどうしても、お耳に入れて欲しいことがあるんですが……」

「なんでしょうか……?」

満たされた自信を背景に面倒な言い回しもなく、EUの権力争いをすぐにでも終わらせる事を宣言するフランツ。だがその直後に彼は少し行き詰まった口調と同じく、今告げることなると急に申し訳ない表情を浮かべる。
そのことでホリーは、一体どんなことが告げられるかと不安を感じ始める。

「自分はこの内戦が始まる以前、アメリカを陰で支配している『元老院』を打倒する手立てを見つける為、独断でその方法を探していたのです。そんな時に『財団』と同じ力、いやそれ以上の力を持つ『ある組織』と接触し、密かに情報交換をしていました」

「そんなことを……! 財団や元老院とは違う『他の勢力』が存在すると言うのですか!」

「いわゆる『第三勢力』と言いましょうか。申し訳ないことに自分はその勢力と通じていました。独断で専行していることや財団に背いていることはわかっています。ですが幸運にも、その組織と利害が一致した結果、自分はこの内戦を終わらせる『ある情報』を手に入れたのです!」

過去に自らの不正規でやったことに心を痛めながらも、悔やみに悔やんだ結果フランツは、やっと手に入れたその成果のことをホリーに話そうとする。

-176-
Copyright ©デニス All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える