小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「マクベス神父……今なんて……―――」

基礎知識を理解したのはいいものの、クラウスはあることに衝撃を受けた。一見マクベスは少し老けた面持ちに、それとはかけ離れた強靭な肉体を持っている。ゆえに見た目の印象からして40代後半にしか思えなかったが、実はすでに還暦を越えていた老人だった。
そのことでクラウスはあまりにも信じられなかった為に、再びマクベスが告げた内容を聞こうとする。

「しっ……お静かに……!」

その矢先、偵察を終えたところで、二人は廃ビルの裏口付近に向う。するとマクベスが建物内に、なにやら騒がしい物音がすることにいち早く気づく。

「なんですか、まさか眷族が!」

あまりにも突然なことだった為か、クラウスは敵の襲撃が来たのかと勘違いをし、慌てながら辺りを見回す。

「いいえ、そうではありません。ミスタークラウスよく耳を澄ましてみなさい」

「え……―――」

老体には違いないとはいえど常に鍛えられている為もあり、並みの人間とは桁外れの感覚の持ち主であるマクベス。その一方で言われた通りクラウスは片方の耳をビルに向ける。

すると―――

「な、なんだキサマっ!」

「ウギャァー!」

「この人間がぁー!」

「あああァァァー……!」

「キサマァー! ―――ギャー!」

次々と発せられる肉体が幾度か壁に激突する生々しい音―――

一瞬、地獄絵図を脳裏に過らせるように建物内に響く籠った叫び声―――

「こ……これは!」

その声と音を同時に聞くことで廃ビル内の一階まるごと、大規模な乱闘騒ぎになっていたのである。そのことでマクベスはともかく、クラウスはかなり予想外な展開に唖然としながら困惑した心情を感じ始める。

「どうやら、あちらには先客がいるようですな」

棒立ちしながら耳を澄ましている新米と比べて、かなり落ち着いているマクベス。そこでクラウスから見た彼の横顔は、事前に予想がついていたかのようにまったく動じた様子はなく、まるで心地いい風に涼んでいるような表情をしていた。

「どうしますか……?」

そんなことよりも今は現場を優先して気にも掛けなかったクラウス。とにかく戦況の急な変化に対応するため、立場的に一番上であるマクベスに判断を委ねる。

「そうですな……こういう場合は、いささかチャンスに変えやすい可能性がありますので、我輩達は敵に与える第二波に備えましょう」

「え……でも―――」

「どうせ我輩達が割り込んだところで、邪魔になるのが落ちでしょう。ここは一つ先客殿にめいいっぱい活躍してもらいましょう」

「はあ……」

一応上官であるマクベスの進言に、クラウスはぎこちない気持ちで従いながら、その場でしばらく待機する。

「ぬ……!」

そんな時、さっきまで厚い雲に覆われて気づかなかった為か、二人が待機している頭上に満月の光が差し込んできた。

そのことで廃ビルの屋上にいる一人の悪魔が、満月を見上げながらほくそ笑む―――

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