同時刻。廃ビル。屋上。
「ケタケタケタ! ゆかいゆかい。これがこの島国に伝わる『月見酒』というものかぁ」
悪魔にとって満月の光は心地よい日の光も同じように、気分が盛り上がり爽快な気分になったことで、相変わらずの奇妙な高笑いをする中級契約者・ハープメイ。
屋上のど真ん中にいる彼は、中世ヨーロッパの装飾が施されたアンティークのイスに腰かけていた。横ある小さなテーブルに置いてある酒ビンに、京都名産の高価な日本酒・『桜花春闘(おうかしゅんとう)』を少しずつ飲んでいたのである。
「さ〜て次はだ・れ・に・し・よ・う・か・な〜、ハハ〜ん」
そしてかなりおちゃらけた様子で楽しんでいるハープメイだが、問題はその楽しんでいる物にあった。
「………×9」
ハープメイの前と左右の三方向に3人ずつ、虚ろな目で手に拳銃や刃物といった凶器を持ちながら、棒立ちをする20代の男女達がいた。
「よーしまずはお前らからだ。ワン・トュ・スリィっ―――」
微笑を浮かべ三つ数え終えたところで、ハープメイの前方にいた拳銃を持った3人の男女全員が、米髪に銃口を向けた直後、一斉に引き金を引き、自分達の頭を撃ち抜いた。
「ケータケタケタケタっ!」
当然その男女達は一瞬で死に絶え、発泡したことで頭から飛び散った鮮血は、ギリギリハープメイの足元に付いた。
すると―――
「あー……繊細である人の命は跡形もなく一瞬で消え去り、悔いもへったくれもなく死ぬ様を見るのは、なんと素晴らしいことかぁー……。やっぱりいたいけな女子供を犯すより、こっちの方が性にあってるな〜ケタケタ。それでいてサイッコウにカイッカーン! ケタケタケタケター!」
今さっき拳銃自殺をされた男女が死ぬ様を見てハープメイは、まるで遊園地で遊ぶ無邪気な子供のようにはしゃぎ、笑い呆けながら長く非常な感想を述べる。
そもそもなぜ男女達はこんなことになったのか、それは強力な悪魔にとって一般的な能力・催眠術にかかっていたのである。そのことで術にかけた本人であるハープメイは、その男女達を自由自在に動かせることができ、いとも簡単に命を奪えた。
「酒は絶品だが―――」
さっきからプライベートな時間を過ごしていることで、ハープメイは度々微笑を浮かべる。そして横にある小さなテーブルの近くに、催眠にかかりながら立っている大人びた一人の美少女がいた。
「―――この子もさぞ絶品なんだろうなぁ〜……、この青い瞳がたんまね〜。よーし次は残りの6人でハラキリ(切腹)でもしてもらおっかな〜」
ハープメイはそのお気に入りの美少女の尻を撫でながら、より呆けた表情を浮かべ、まるで自らの非常さをアピールするように、あらゆる殺戮によって次々と人の命を弄(もてあそ)び続ける。
「さあ、紳士淑女の皆様! どうかこの俺に信愛の証として腹の底を見せてちょうだ〜い。なーんちゃってケタケター!」
このハープメイが自ら築きあげている残虐な感情は、屋上の一つ下の階に隠されおり、それがもうすぐ知るところになろうとしていた。
一方、帰宅した真堂は―――