小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「ふんっ!」

「ナアァァァー!」

 2階。素早いみのこなしを見せつけ、次々と向かう敵を蹴散らす長髪の青年。
その周囲には霊体から実体化し始め、ほとんど猛獣同然の姿の悪魔達に囲まれていた。普段は人間に憑いている下級といえど、彼らはそれなりの戦闘力を有していた。

「あいつもう10人近く平らげてるぞ―――」

「なんだあの人間は! いくらなんでも強すぎる―――」

「クッソー! よくもアニキを―――」

「なんでもいいから早くあいつを片付けろ! こんなこと『宗主様(ハープメイ)』に知れたら、俺たち全員しょっぴかれっぞ!」

そしていつまでもアベルが倒せないことで、焦り始めたハープメイ配下達一行。間合いを狭めつつ、慎重に攻撃のスキを伺うことを続け、一時的なコウ着状態に陥っていた。

「いい気になるなよ人間! 今から俺たちの自慢の爪で八つ裂きにしてやるからな!」

ちなみに悪魔達が所持している唯一の武器は、鋼鉄に近い伸縮自在の鋭い爪である。今は青年を囲いつつシャキンと聞こえんばかりに、その武器をギラつかせていた。

「御託はいいから……死にたい奴はかかってこい!」

 「んだとぉ。それなら……お前ら、やっちまえ!」

「キシャー!×8」

前方の180度圏内に8人の悪魔達が青年・アベルに襲いかかる。

「………」

一方で襲われる側は一切微動だにせず、その瞳はただ勝利という一点のみを見据えていた。
それはある事情によってアベルは知っていたのである。集団行動の是非を―――
確かに力を合わせ、集団で襲えば大きな攻撃ができると思う。だがいまいちチームワークにかける下級悪魔達に対しては、話は別だった。

(見えた!)

心の中で勝機を呟くアベル。
一斉に攻撃する相手の一人一人に対する動作のバラツキを、一瞬で見抜いた。
それにより急症も見つけたのも同然だった為、とっさに一番攻撃に出る悪魔の胸めがけて、『木の杭』を投げつける。

「ギャァァァー!」

投げつけられた武器は、その悪魔の胸から心臓にまで突き刺さり消滅。
後にわずか数人はそれに気をとられ、アベルは敵の突撃体制を一時的に崩すことに成功した。

「ひるむな! こんなことどうってこと―――ってぶォォー!」

その突撃した7人内一人のリーダー各だと思われる悪魔が、再び体制を整える為の第一声を発した。
だかその矢先にアベルはそのリーダー各の片腕にしがみつき、そのまま更に前方に密集している敵めがけて『背負い投げ』仕掛けた。
それにより、まるでボーリングのストライクをきめたように、臨戦態勢で密集していた悪魔達は総崩れする。

「キシャー!×6」

後に突撃していた残り6人の悪魔達は抗戦するも、その場ですぐに『木の杭』を拾い上げたアベルの敵ではなかった。

「しゃらくせぇー!」

とても数秒の間とは思えないほどに、相手のわずかな動きを読みつつ、素手による格闘で悪魔達のスキを瞬時に見抜く。
そしてドミノ方式(連続)で敵の急症めがけ一人ずつ『木の杭』を次々と打ち付け消滅させた。

「な、なんてやつだ……あの数をいとも簡単に平らげるなんて……!」

常に集中力を途切れさせないアベルは、敵の戦力の大半を削いだことで、さっきまで襲おうとした残り3人の悪魔は、士気の激減によって後退りを始めた。

「そっちがそうくるなら、こっちはとどめだー!」

一方、士気を最高潮にまで達したアベル。だが手元に持っていた『木の杭』が突然弾けた。
いくら聖なる加護が施されていたといえど、数十人の悪魔達を連続で倒し続けたことで、使用限界を超えてしまったのだ。

「―――やっべ!」

「ハハハハハハ! いくらその杭に『聖堂儀礼』が施されているからって、木製だから耐久性に限界があんだよ! ようしお前ら、無防備なったあいつはもう俺達の敵じゃねえ! さっさとやっちまうぞ!」

「おー!×2」

武器を破壊してしまったことで無防備になったアベルは、なす術がないかのように後方のドアに後退りをし始める。
そのことでチャンスをみいだした残り3人の悪魔が襲いかかる。

「死ねやぁー!」

「くっ―――」

唯一の武器を失い絶体絶命に陥るアベルは、すぐさま素手で対抗する為にかまえる。が―――

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