「―――な、なんだよ……これ……!」
「………」
3階に到達した真堂達。扉を開けてそうそうに彼らを待っていたのは、その階のまるごと敷き詰められた大量の『屍』であった。
簡単に『血の海』と例えたいが、放置してからかなり時間が経過している為に、死体から漏れている血液の方は完全に黒づんでいる。
「う、うぷ……うオゥエエエぇー……」
おまけにその光景は何日も放置してあるゴミ捨て場に近い。死体によっては若い男女が多く、鼻が曲がるほどの腐敗臭とウジやハエが集(たか)り、驚くほど生々しい食物連鎖の現実が見られる。しかもその死体の多くには瞳孔(どうこう)が全開した者ばかりで、かなり残虐な殺され方をしたのは間違いなかった。
だがそんなことなど知るよしもなく、真堂は立ちくらみを覚えながら、胃の中にある物を全て出すかのような勢いで何度も嘔吐(おうと)する。
「李玖……」
一方で横にいるアベルは、膝を付きながら吐いている真堂の背中をさすりながら、切ない眼差しで彼の横顔を見つめる。
「これ……が……、奴らがすることなの……かぁ……ゲホッ!」
それによって目元から涙が少しずつしたたり、今目の前にある『醜(みにく)い現実』に対しての感想を述べた。
「そう……これが奴らのやり口だ。李玖、どうして俺が悪魔退治なんぞに行動を起こしたのかわかるか?」
「いいえ……」
「―――たかが悪魔じゃないからだ。現実に存在する悪魔ってのはゲームや漫画とやらに出てくるような、そんな甘っちょろいもんじゃない。今おまえの目の前にあるのが、奴らの本当の恐ろしさなんだ」
「う……」
真堂の心にあまり負担をかけない程度に、今の厳しい現実をわからせようとする。
「俺の言ってる意味……分かるよな」
優しく問うアベル。
「はい。だったら止めない……と」
「よし、その調子だ」
そのことで一気に落とされていた真堂の士気は上がり始め、アベルを先頭に屋上に続く階段えと進みだした。
すると―――
「うぅ……ん?」
腐敗臭が漂うなかで、真堂は鼻をつままずに、敷き詰められている死体に気を付けながら進んでいると、足元に見覚えのある誰かの学生手帳を拾う。
「これって、うちの学校の……?」
血で汚れた所を拭き取ってから、わずかだが学生手帳の名前をよく見た。
「こ、これは……!」
真堂は悪寒を感じたと同時に驚愕する。なぜならその手帳の持ち主が『石川岬』の物だったからだ。
「やっぱり石川さんも……!」
石川も被害を受けたの改めて理解した真堂。しばらくその場から足を止め、2日前の石川の葬式の現状が脳裏によぎらせる。
(早く……早く止めないと!)
それと同時に今いる階に転がっている死体よりも、千単位の犠牲をだした『911』の情景も脳裏によぎる。そのことで真堂はいらぬ使命感にとらわれる中で、わずかに浮かぶ涙をぬぐいながら、もう少し早く進むようになる。
そして屋上え―――