小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「ケーケタケタケタ!」

「おまえららしい、奇妙な笑いかただなおい。なにがそんなにおかしいんだ?」

屋上で個人的な時間を満喫しながら、ヘビメタを模したようなトゲトゲしいハデな格好をし、夜にも関わらずサングラスをかけた悪魔の親玉。後ろからアベルに声をかけられたことで、その個人的な極楽が終わりをつげようとしていた。

「ケタ? 誰だおまえ?」

「おまえらの業界に深く通じた奴……とでも言っておこうか」

顔を歪めた親玉に訪ねられたアベルは、謎かけを含んだ返答をする。

「あぁ? 「おまえふざけてんのか?」と言いたいところだが。ここに来れたってこたぁ、もしかして下の奴らを全員平らげちまったのか?」

「親切に通してくれるほど、おめえらは人間できちゃいねえだろうが」

「ケタケタケタ! そりゃそうだわ! マもっとも俺ら人間じゃないけどな、ケッタケタケター!」

甲高い奇妙な笑いかたをする親玉。酒瓶を片手で持ち上げてからラッパ飲みした後に、タバコの先端に火を付け、いささか千鳥足でアベルに近づく。
悪魔らしいかなりの快楽主義者なのがわかる。

「ケッタッタッタ……ヒック。あぁ〜、やっぱはぐれもんの小悪魔は役にたたねえな〜おい。どうだ、いっそのこと俺の配下になんねえか? ああそうそう俺の名前はハープメイ、おれらの業界に深く通じてんだったらわかると思うが、俺の『邪号』は『ウルトレス・スケロルム(4級悪魔)』ってんだ。まあよろしく頼むぜ長髪の嬢ちゃんよ。す〜ふ〜……」

酔ってることにより、あまりロレツが回らない状態で自らの身分や名前をしゃべり、あたかも勝手にアベルを配下になることを決めつけ、タバコを噴かすハープメイ。
一方でしかめっ面をしながら、話を聞き終え、アベルは次のように答える。

「なに勝手に決めてんだコラ。俺は男で人間だぞ」

「んぇ? だっておまえその『色違いの左目』、俺たちと同類の証拠じゃねえかよ。それともなんだ報酬の問題か? おまえみたいに腕のたつ奴なら、女子供まで褒美ははずみにはずむぞ〜」

「それってあんたが散々貪った一つ下の階にある死体の山も、その報酬とやらの一部か?」

ハープメイの人道心の欠片すらない非常な説得に、アベルはかなりけわしい表現を浮かべながら問う。おそらく今のが悪魔に対するスカウトの仕方なのだろう。

「なんだゴミはちゃんとゴミ箱に捨てろってか? 真面目だね〜、ますます気に入った! なんなら契約金として、あそこにいる女をやろう。なかなか美人で味も上等、しかもあの青い目だ。さぞかし楽しみ甲斐(がい)があるってもんだぜ、どうだ?」

おしゃべりな性格なのか、ハープメイはいろいろと非常なことをしゃべり、向こうに棒立ちをしている青い目の女性を指でさし、しつこくアベルを取り成そうとするが―――

「お断りだね。俺はわざわざそんなことをする為に来たんじゃねえ。こっちはおめえらみてえな、たかが『バカデケエ蠅(ハエ)』一匹に従っているような奴らを根絶やしに来てんだからよ!」

「なってめっ! ん、まてよ? 『皇帝陛下』に対して、そんな侮辱が言えるってことは……おまえもしかして―――」

「あとよ。おまえ息クセえんだよ―――李玖!」

他愛のない捨てゼリフを残した後でアベルが叫んだ名前の少年が、後方の屋上と3階を繋ぐ扉から飛び出してきた。

「ゼェアァァァー!」

当然、戦闘体制ゆえの夕日のように輝く眼光。
それにより敵目掛けて突き進むことで儚い命の如く。
線を描くその輝きは流星に近い走りを見せる。

「な、なんだ!」

なぜアベルは遠回しな演出をしてまで、このような攻撃にでたのか―――

それはさかのぼること戦国時代。
劣性に立たされていた戦国武将・『織田信長』が大いに優性だった相手に、奇襲を仕掛けて勝利したことが例にあげられる。
屋上に向かう途中で戦った下級悪魔達と違い、未知数な能力があっても手ぶらの状態で、数段上のハープメイと戦うにはあまりにも頼りない。
そこで屋上に出る前に、そのことに気づいたアベルの提案により、急遽奇襲にでることに決定したのだった。

「貫けぇぇぇー!」

未知数に関わらず、数倍に跳ね上がった身体能力は、真堂を完全なる勝機に導こうとする。

そのことで真堂は手刀の先端をハープメイの胸に貫く、はずだった―――

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