「はっ……あぁ……ああ……―――」
目前に立ちはだかる者が目に写り――
「なん……で……」
愕然とし―――
「どう……して……」
涙を溜め―――
「あなた……がぁ……」
声音(こわね)はきしみ―――
「美麻さん……!」
内に潜む『哀』が吹き出す―――
「よかった……李玖……くん……」
目前にいたのは、何度か串刺しにされ、致死量の血を流しながらも、わずかに真堂に微笑む殿難美麻だった。
満月によってハープメイが悪魔としての力を強め、美麻の催眠状態は強固なものとなっていたはずだった。だが彼女は幾度か抗ったことで催眠が解いた矢先に、急遽真堂をかばい今に至る。
「嘘だろおい……!」
一方で大量の血を流したことで身動きが取れないアベル。
「なんで……俺なんかぁ……」
彼女が盾になったことで真堂の命は救われた。だが彼は望んで救われた訳ではない。腰が抜けた状態で涙を流しながら大いに哀しみ、再び美麻にその真意を問う。
「だって……あなたは……あの人の……だいじ……な―――」
立ち往生(死ぬ)するかに思えたが、瀕死の状態で限界がきた美麻。なにかを口走る途中で、目の前で嘆く真堂にもたれる形で倒れ込む。
「あっ、美麻さん!」
「いき……た……か……し……」
「え? い、今なんて……?」
「いきた……あか……し」
「あかし? ―――がっ!」
わずかな力を精一杯振り絞ってから言った、その言葉を耳にした瞬間、真堂は一瞬だけ極度の頭痛に襲われる。