小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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翌日。2004年4月16日。金曜日。朝―――

あれから一睡もできずに昨日の夜の出来事が、まるでなにもなかったかのように真堂は朝を迎えた。朝食のパンを噛み締め、いつも見ているニュース番組(フ○テレビ)・め〇ましテレビを見ながら、真堂は自ら機嫌の悪さを訴えるかのような顔つきでテレビを見つめる。

(眠い……)

「李玖……どうした?」

ただひとり真堂の様子に気付いて声をかけたのは、朝食を作った本人で家族の中で誰よりも頼りになる真堂の兄・真堂陽一の声だった。

「うん……、ちょっとね……」

「ちょっとっておまえ……顔青いぞ。それとクマもあるし、夜更かしでもしてたんじゃないか」

陽一はパンにバターを塗った後、そのまま口に運び、自分の弟を心配しながら食す。

「うぅ……」

兄の問いかけに真堂は答えられなかった。昨日の夜に起きた事をどう説明していいのか分からなかったからである。

「図星だろう。昨日なにがあったかは知らないけど、あんまり心配かけるなよ」

「う……うん」

あまり昨日の事で兄に詮索されない事にホっとする真堂。

「なあ、李玖」

「ん……なに?」

さっきまで食べていたパンを皿に置いた後、陽一は真剣な眼差しで真堂を見つめ、ある事を問いかけた。

「今日……母さんの見舞いにいかないか?」

「え……」

真堂は口にパンを運ぶのを止め、困った表情でゆっくりとパンを皿に置いた。

 「母さんの……見舞い……」

 「ああそうだ。母さんおまえに会いたがっていたぞ」

 「そ……そう」

兄の問いかけになにやら緊張した様子で応じる真堂。

「………」

「大丈夫だ……前みたいにおまえを拒絶したりなんてしないさ」

「……え……?」

不意に言った兄のその言葉はまるで、暗い闇の中に一筋の光が差し込むかのように真堂の不安を打ち消した。

「そ……そうだよね、昔とは違うもんね」

真堂が言う昔というのは、3年前。真堂の母・真堂優子は911で夫(創一)を亡くし、PTSD(トラウマ)を発症した事で精神的に不安定になり、あの夫ですら生きて帰れなかった危機的状況から生き残った息子(李玖)を憎むと同時に、拒絶するようになった。
そのため真堂はこの3年間、母の見舞いに行くのは兄(陽一)・姉(智美)の二人しか来たことしかなかった。
だがその3年間、母の容態は精神的にも良くなり始めた事を知った陽一は、今度の母の見舞いの話しを持ち掛けてきたのだった。

「そうだ、まあ〜そんなに無理して行く必要はないから、来たいか来たくないかは学校の帰りに俺に連絡してくれ」

「……うん。わかった」

兄の気遣いに照れながら応じる真堂。急いで朝食済ませ、一つの迷いに復帰れた事で真堂は爽やかな一声を兄にかける
兄は安心したのか学校に行く弟を満面の笑みで見送った後、朝食に使った食器を片づけ、自分が通っている大学えと向かうのであった。

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