小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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真堂は石川の口の固さを信じて、昨日の出来事について全て話しだした。

「―――監視!」

「しーっ!」

あまりにも信じられない内容に驚いた石川。思わず話し内容の一部を吐き出し、真堂は人差し指を唇の中心に当て黙るようにサインをだす。

「ああごめん……たしかに話そうにも、誰も信じてくれなさそうな内容だけど……私は信じるよ!」

「ありがとう石川さん。でも、さっき話した事はあんまり人に喋んないでね。石川さんも狙われる可能性があるから」

「分かった! 実際に狙われた訳だからね……」

真堂の忠告に素直に応じた石川。いくつか昨日の出来事について疑問が残るが、真堂は石川に告白した事でちょっとした安心感が持てた。

「今でも信じられないよ。まさか911が……あの事件が最初っから仕組まれた事だったなんて」

「あんな大事が起こせるくらいだ。その組織はかなりデカイんだろうな」

「やっぱ獅郎もそう思う?」

あの事件を思い返しながら落ち込む真堂を見て、獅郎は慰めるかのように推測を説いた。

「……そういえば話と関係ないんだけど、崇妻くんの苗字ってなんて書くの?」

「あ? 何だよ突然」

不意に言った石川のその言葉に、嫌な予感を感じた獅郎は少し困った表情を浮かべる。

「なんか気になって」

「……崇めるの崇と、人妻の妻って書くけど……」

教える義理はなかったが、911について詮索するよりかはましかと思った獅郎は面倒くさそうに応じる。

「ああ……やっぱり」

「なにがやっぱりなの石川さん」

石川が獅郎に関してなにか確信に近づいた事に気付いた真堂は、二人の会話に入ってきた。

「崇妻くん、『フォックスナイン』って会社知ってる?」

「……なんで!」

獅郎が驚くのも無理もない。なぜなら石川が言ったフォックスナインという用語は、ある業界人(政界人などなど)にしか知らない『崇妻財団』の名称だったからであった。

「フォックスナイン? 獅郎それって」

「お袋の経営してる……会社……」

獅郎は冷や汗をかきながら応じる。

「たしかフォックスナインていう名称は、九つの大企業が連携してできた会社だから、その名称が付けられたって聞くけど―――」

「えっ! 獅郎のお母さんってそんなにすごい会社を指揮ってるの!」

「ああ……」

獅郎の母親について知ってる以上の事を知っていた石川に対して、真堂は驚きが隠せなかった。一方獅郎は石川の母親に話を聞く度にだんだん冷や汗が増していった。

「でもちょっとまって、石川さんなんでそんなに詳しいの?」

「家のお父さんがそこの会社に務めていてね、家に帰る度にその働いてる会社について色々な情報(企業秘密以外)を教えてくるんだ」

「へ〜そうなんだ……ん? あれ?」

石川との会話中に真堂はある事に気付いた。それは、母親の会社ついて話していたら、思い出したくもない母親の微笑を浮かべる姿が頭の中によぎった為、気分が悪くなった獅郎はその場から立ち去っていたのだ。

「あれ……崇妻くんは?」

「獅郎は……やっぱり逃げたか……」

「逃げたってなにが?」

 「いやぁ……その……獅郎はさあ、今お母さんと仲が悪くて、さっきみたいな話をすると急にどっか行っちゃうんだよ」

「そうなんだ……なんか悪い事しちゃったなあ」

悪気がなかったとはいえ、獅郎にとってはあまりにも気持ち的に辛い結果になる事を石川は理解した。

「でもなんで獅郎にあんな話しを振ったの?」

「それは、昨日おばあちゃんが先走って買った着物がね。崇妻くんのお母さんの会社が経営している店で買ったものだったんだ。その事でもしかしたらと思って話しを振っみたんだ」

「そのおばあちゃんは何を先走ったんだい?」

「成人式」

「ああ、そりゃあずいぶん先走ったもんだね」

他愛の無い話しをするのはよかったが、昨日の出来事について話しが飛んだことに気がついた真堂は、すぐに本題をまとめようとした。

「とにかくさっき話した事は、誰にも話さないようにしといてね。まあ話したところで誰も信じないと思うけど……」

「でも監視されていたんでしょ。今でも……その……監視されてるんじゃ……」

石川は周囲に気を配る素振りを見せながら、真堂に不安げに訪ねる。

「いや、それはないと思う」

「えっ、なんで?」

自信に満ちた言葉で応じる真堂。その言葉に不安に感じた石川だがそのまま会話を続けた。

「あの瀕死の状態で俺を逃したところだと、多分どっかで傷を癒していると思うんだ。もっとも生きているかどうか分からないけど、とにかくあの傷で監視する暇なんてないと思うんだ」

「そう……李玖くんがそういうなら―――」

「真堂っ!」

石川がそう理解すると、屋上の出入口から急いで張り上げた声が聞こえてきた。テンポの早い足音とともに大きくドアを叩き上げ、少しきつめ緑ジャージを着た美女は現れた。

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