小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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一週間後―――。

2004年4月23日。金曜日。夜―――

真堂陽一の葬式は真堂李玖の誕生日に行われた。真堂は兄の葬式がまさか自分の誕生日に行われるとは思いもよらなかった。そのことに皮肉を感じたが、そんなものは陽一を失った悲しみで一気に沈みかえった。
陽一の死因は焼死。大学え行く途中、いつもの通学路に玉突き事故が起こった。近くにあった車が事故の影響でガソリンが引火し爆発する。それに陽一が巻き込まれ、しばらくして焼死体として発見された。警察の検視に出された時にあまりにも遺体の損傷がひどかった為、陽一だという特定は不可能だった。だが幸運にも私物の中に、遺体の首にかけてあったペアリングに名前が彫ってあった事に、真堂陽一だと特定ができた。
葬式に出席した人は崇妻獅郎、石川岬、杉山薫、クレア=レイルフォード、兄の大学の同期、親戚一同(いとこ込みで)、以上30人以上が出席したが、ゆいいつ欠席したのは真堂の母・真堂優子だった。

「………ふぅー」

葬式は無事に終わり、出席した人達が励ましの言葉を交わしながら帰っていった事で、少し元気を取り戻した真堂は、気晴らしに外の空気を吸おうと一人で散歩をしていた。

「兄さん……なんで」

兄・陽一の突然の死についてまだ認め切れずに、真堂はある事を考え込んでいた。それは、なぜ兄が死ななければならなかったのか、そんな無力な自分に落胆する中で、なんとも腹が立ってしょうがなかった。

「……はぁー」

『そ……ふぃ……け……て』

「!」

兄が死んだ事で真堂はこれからどうするのか考える前に、思わずため息を吐いた直後、突然頭の中に声が聞こえた。

『ソフィを……たのむ』

「あ……痛っ……なんで!」

なぜこんな見知らぬ道であの現象が、頭痛と共に真堂は周囲を見回して見ると、適当に散歩しているうちにあの教会に行き着いたことに気付いた。

『俺は……人間じゃ……ないか……ら』

「あっ! ああ……」

真堂は思わず顔を手の平で押さえる。教会であの現象が起きて以来、二度と行かないと誓っていたので、真堂はその独特な緊張感に少し焦りを感じ始めた。

ピシッ―――ピシピシ

「―――?」

不意に聞こえてきたなにかがひび割れるような音に、真堂は無理に誘われるかのように恐る恐る教会に入っていった。

『た……け……て』

「ん〜なにも……ないよな……あれ? そういえば頭痛が収まってる」

教会に入った事で聞こえてくる声に、真堂は急に痛みが引いていることに気付いた。

『た……す……て』

「暗くて良く見えないなあ……」

教会内は電灯と電球といったものはなく、光が内側に入りやすいように設計されている為、頼れるのは自然の光かロウソクの火でしか灯かりといえる物はなかった。

『た……け……た……す……け……たすけて!』

「ん!」

ピシッ―――ピシピシピシ……パリンッ

「えっ?」

さっきまでボソボソと頭の中で、なにを言っているのか分からず気にもしなかったが、やっとまともな一言で聞こえたその矢先、急に前方からなにかが割れる音がした。そのことで真堂はその場で立ち止まった。

「今の音って―――ん?」

暗闇の中で真堂の足下になにか転がってきた。それを拾い上げ、なにやら硬い物らしいが材質はなにか手探りで確認しようとする。

「なにかの……金属かな……ん? 金属!」

真堂の脳裏にある光景がよぎった。その光景とは左右の床に並べてある横長椅子と前方中央に置かれている、古びた十字架に貼り付けにされたイエス・キリストのブロンズ像のことだった。

「あのブロンズ像の欠片か……ヤバいだろこれ」

その金属の出どころが分かったところで、最悪な場合弁償させられる危険を感じ、顔の欠けたイエス・キリストのブロンズ像を元に戻す為に、真堂は行動に移ろうとしたが―――。
その時、さっきまで夜空にかかっていた雲が少しずつ消え、やがて満月が顔を出す。
月明かりは光を増し、教会内の灯かりとしてゆっくりと、顔の欠けたイエス・キリストのブロンズ像に光が差し込んでいった。
そこで真堂が見たものは―――。

「なっ! なんだ……これ……!」

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