夕方。放課後。
時刻は午後三時を回り、帰宅する真堂は下駄箱の靴に手を伸ばそうとすると、横に人の気配を感じたのですぐさまその方向に振り向いた。
「真堂李玖くん、だよね」
「え? ああ……今日、転校した……たしか……」
「―――神崎洵。さっき自己紹介したのに、もう忘れちゃったの? 俺、そんなに影薄い?」
神崎はふざけているか、真堂に慣れ慣れしい態度で質問する。
「別にそんなつもりで言った訳じゃあ……」
「まあいいけどさあ、三年間一緒に学園生活を過ごすわけだしさあ、挨拶も兼ねて仲良くなりたいなあと思ってね」
「はあ……」
自己紹介してた時の態度とは裏腹に、神崎はとても砕けた態度で真堂に接した事で、さっきまで猫を被っていたことを理解させる。
「早く新しい環境に慣れて、良い学園生活を過ごしたいと思ってる。まっ、実際、こんなレベル低い学校でなにが楽しめられるかどうかわかんないけど、唯一楽しめるといったら君しかいなくてさあ」
「え? 俺?」
なにか陰気なもったいぶりように、神崎は真堂に言った気まぐれな言葉の意味を伝える。
「そうそう、君の経歴にちょっと興味があってね」
「俺の経歴……経歴ってなんの……?」
「ヒント。君が人生の中で体験した21世紀初頭に起きた大事件の事についてでーす!」
「!」
神崎の予想外の質問に、真堂は独特の寒気を感じたと同時に、多大なる冷や汗をかき、あの事件の光景が脳裏によぎる。
「んふふふぅ〜」
「9……11……」
「―――正解!」
この少年・神崎の満面な笑みの裏にいったいどんな事を企んでいるのか、真堂には分からない、ただ理解できるのはあの事件について質問してきたということは、高い確率でろくなこと聞いてくるに違いなかった。
「なんで……?」
「いやあ〜! 俺もまさかこんなめぐりあわせがあるなんて思ってなかったからさあ」
「………」
「それに、知っておきたいこともあってさ」
真堂の肩に手を伸ばし、がっしりと組んだ後で神崎は耳元で次の質問を問う。
「で、実際どうなのさ、目の前で人が大勢死ぬ体験っていうのはさあ」
「うぅ……」
神崎の冷徹な質問に真堂はなにも言い返す言葉もなく、肩を組まれた時点でどう対応していいのか分からず、精神的かなしばり状態にかかったようにただ唸ることしかできなかった。
「んふふふぅ〜……ん? ―――ぶ!?」