小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

2004年5月28日。金曜日。東京都。新宿区―――。
ちょうど真堂が昨日のHRで杉山が言ってた『保健の小テスト』をやっている頃、西新宿ではあらゆる超高層ビルが立ち並ぶなか、横断歩道を歩いて人混みに紛れている一人の『男』がいた。
男は漆黒に染まったロングコートを着こなし、女のような顔つきをしている。
いずれ男は周りに人気が無くなってところで、目の前にある『電話ボックス』に近づき、中に入って受話器を片手に持って小銭を入れ、番号を打った後、しばらく連絡相手が出てくるまで待つ。

5分後。

『プルルルプルルルプツッ―――……ジョニー・蓮=マーキスか?』

電話に出た相手の声は『老人』だった。

「はい。申し訳ありません『同志』。一ヶ月連絡をせずに―――」

ジョニーはその老人に対して、敬意を評して『同志』と呼んでいる。だがジョニーは実際この老人の正体は全く知らず、ある事情で彼を信頼し、今はこうやって秘密裏に連絡を取り合っているのだった。

『はぁ……、それはいい……なにがあった?』

老人はジョニーの無事に生きていたことに安堵の息を漏らし、話を進めようとする。

「はい。礼の少年を迎えに行った時に、ネフィリムの襲撃を受けました」

『なに!』

老人はまるでその言葉を信じられないかのように、声を張り上げ驚いた。

「信じられないと思いますが、あの奇怪な能力……まず間違いないでしょう」

『そうか……『冷戦終結後』に処分されたと思っていたが……、おまえはどうしたんだ? 襲撃されたってことは、傷ぐらいは負ったんだろ?』

「はい。知り合いの『闇医者』に頼んで何針か塗ってもらいましたが、完治するまで一ヶ月かかり連絡が遅れました」

『………』

「同志?」

急にだんまりとした老人に、ジョニーは心配するかのように声をかける。

『あの子は……』

「はい?」

『あの子は……元気だったか……』

「礼の少年、『真堂李玖』の事ですか」

『ああ……』

老人は真堂の安否を心配するかのようにジョニーに問うた。

「はい。元気でした……あの組織がネフィリムを投入してきたということは、おそらく彼を狙った行為だと私は推測します」

『いや、それはないだろう。『聖餐者(せいさんしゃ)』でもなくあの子と俺の関係がばれない限り、やつらに狙われる事は無いだろう。俺が思うにあの襲撃はおまえを狙ったんだろうさ』

ジョニーの推測は老人の問いに答えたことで崩され、次の問題に切り替える。

「さすが、『アジアの眠れる獅子』と呼ばれたほどの見事な推測ですな」

その推測に関心したのか、ジョニーは老人の異名を口にし、言いようによっては接客するかのような誉め方をした。

『よせやい、昔の話だ』

老人はジョニーの誉め言葉をぎこちない口調で照れた。

「しかし、私が狙われたと言うことは、同志。あなたの存在が組織に知れたのでは―――」

『おそらくな、その時はまた中東のどっかに引っ越すさ』

「冗談はよしてください! またあなたのせいで『イラク戦争』みたいのを起こす気ですか」

ジョニーは冷や汗をかきながら、さっきの老人の発言を注意した。

『すまん失言だった……。だがやつらは俺の存在には気付いていないだろう』

「それは、なぜ?」

老人が自信満々に答えたことに、ジョニーは不思議に思った。

『三年前に俺が組織の中に潜り込ませておいたエージェントの情報だと、俺が日本に居るなんて情報はどこにも流れちゃいないらしい』

「私が知らない間にそんな事を……」

『敵を欺くにはまず味方から』と言うものの、あまりにもいきなりのことだったので、ジョニーは少し落ち込んだ声で答える。

『おまえにはすまないと思っている。だが苦労してやっと組織の足取りを掴めることができるようになったんだ。どうか分かってほしい……』

「いいえ……敵を欺くにはまず味方から。と、いいますから……同志が謝る事はないですよ」

老人は謝罪した事で、ジョニーは恩人に対してとても前向きな発言をした。

『そうか……おまえがそれでいいと言うならばそれでいいが……連絡したついでに次の仕事を頼まれてくれないか』

「なんです?」

『おまえ今、どこにいる』

「東京の西新宿にいます。それがなにか?」

『それなら、話が早い。おまえが今いる場所に『黒いビル』が建っていないか』

「黒いビル……ですか」

ジョニーは受話器を持ったまま老人の言った通りに、辺りを見渡しながら黒いビルを探す。

『どうだ?』

「あっ、ありました。あれは……アルスターカンパニーの日本支社のビルですかね……」

ジョニーの見つけたビルというのは、世界有数の『総合民間軍需産業アルスターカンパニー』の日本支社のビルだった。

『今回の仕事はおまえが今見ている会社に関係がある仕事だ、組織の中に潜り込んだエージェントの情報だと、組織がアルスターカンパニーの社長にある依頼をしたという情報が送られてきた』

「社長……っ! まさか、『ロギア』が関わっているんですか!」

『おう、やはり社長の二つ名を知っていたか』

ジョニーは面食らった顔で応じた。それもそのはず、アルスターカンパニーの社長のロギアと言う呼び名は、ある業界では限られた人間しか知られていなく、社長じたいは年齢、出身地、経歴すらも謎の人物として扱われている。
ただ、これだけではなく『軍事ロックフェラー』とも名高く、アルスターカンパニーを世界有数の民間軍需企業として、育て上げてきた事もあって、社長・ロギアはそれだけすごい人物だということをジョニーは知っていた。

「組織がアルスターカンパニーのある『依頼』というのは一体なんなんですか?」

『わしにも分からん。その情報を掴むのがおまえの仕事だ』

「潜入捜査ですか?」

『そうだ、組織も落ちぶれたもんだ、『誰かさん』のせいで民間の組織に頼らざるおえなくなったんだからな』

老人はそのセリフをまるで吐き捨てるかのように、ジョニーにボヤく。

「『存在しない英雄』ですか……、それもそうでしょうね。なんせ第二次世界大戦で組織の盟主を倒されて以来、ずっと不安定な状態が続いているわけですからね」

『まあそんな過ぎた事はどっか置いといて―――おまえは組織がアルスターカンパニー頼んだ依頼を突き止めてくれ、次の連絡はその情報を掴む時だ―――』

「はい、了解しました同志」

『―――プツッ』

話が終わったところで老人は先に電話を切った。様々な謎が渦巻くなかジョニーはアルスターカンパニー日本支社の潜入の準備を進める為に行動に移るのであった―――。

-35-
Copyright ©デニス All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える