小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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2004年5月31日。月曜日。学校―――。

「テストの答案返すぞー」

今日は保健の小テストの答案を返される日。それぞれ答案用紙をクラス全員に配われ、真堂達のテストの結果はというと、石川岬74点、崇妻獅郎86点、神崎洵89点、真堂李玖―――100点。

「あ……ああ……あぁ……」

真堂が今見ているは、間違い無く全問正解の100点のテスト用紙である。
本人はこのテスト用紙を見て驚愕しているが、半分はどことない達成感に浸っている。
なぜ真堂はこのような普通なら信じられない点数を取れたか。それは、小テスト当日に『あの能力』に目覚めたのだ。

(あの時……、頭の中に聞こえてきたのを適当に書いただけで、まさか100点を取るとは。しかも聞こえてきたのが全部答えだったなんて……)

やはり『能力』に目覚めたのはあの教会が関係していると思うが、真堂はそんなことよりも、ある意味ズルをしてしまった事に、とてつもない罪悪感を感じていた。

「ん〜……ん?」

真堂は一人だけ100点を取った事で、クラス全員の一定的な注目を集めていることに気付いた。

(うぅ……良い点を取って、こんなに痛く刺さる視線を感じるのは初めてだ……)

クラス全員の視線がまるで、罪悪感という名の大量の弓矢に刺されるかのように、真堂は午前授業が終わるまで、自らの頭を抱えながら唸るか現実逃避をするために、テスト用紙を裏返すことしかできなかった。

昼休み。授業は終わり、やっとの思いで真堂は教室から出ていき、すぐに男子トイレに向かった。

「はぁ〜……」

洋式便所の個室に入った真堂は罪悪感地獄から解放されたことで、独特な疎外感に浸って一息つこうとした。

コンコン

「ん?」

その時、ほんの二呼吸した後に個室のドアからノックする音が聞こえた。

「入ってまーす」

「なんだ、いるじゃん」

「!」

真堂は普通に応じると、ドアの向こうから声が聞こえたとたん、否応なく寒気に襲われた。

「だっ……誰……」

真堂はこの声の主を知っているのだが、ここはひとまずとぼけてようと判断した。

「オレオレ」

「お……オレオレ詐欺」

「なんじゃそりゃ? オレだよ―――神崎」

そのまま立ち去ってくれればよかったのに、そう思った真堂は自ら安らぎを求めてトイレに入ったことを悔んだ。

「………」

「もしかして金曜の事まだ怒ってんの? いい加減許してよ。俺は君と仲良くしたいんだって」

真堂は3日前にあんな事があって以来、神崎と距離を置くようになった。つまりは元々第一印象が最悪だった為に、拒絶するようになっていたのである。

「ねえねえ真堂くんてば〜」

いまだに立ち去らない神崎にいらだちを心の中に感じていた真堂は、まずこの状況をどう乗り切るのかを考えていた。

「今日ここに来たのは、君に詫びをしに来たんだよ」

真堂は神崎の言った事に耳を傾け、金具に手を伸ばしガチャッという音を発てながら個室のドアを開け、顔を半分見せ始めた。

「……詫びって?」

「アハハ……イヤー100点取ったお祝いと金曜日の事も兼ねて、ラーメンおごろうかと思って」

「ラーメン……?」

神崎の誘いにこれはなにか裏があるのではないかと、真堂は思い個室のドアを閉めようとしたその瞬間―――

「ああ! もちろんそんな不味い所じゃなくって、ちゃんと美味しい所だから、ね! ね! ね!」

神崎は必死にドアにしがみつき、無理矢理にでも一緒に行かせようと引き留める。

「ぬう〜、よしこれでどうだ! チャーシュー十枚付きチャーシューメンと餃子付き。これでどうだぁー!」

ガチャッ

「うわぁ!」

「―――あとチャーハンとデザートに杏仁豆腐が付いてくるなら」

ドアを押さえ付けるのを止めた真堂は神崎の目の前で顔を寄せ、ニコやかに追加の条件を出してきた。

「あ……ああ、そうこなくっちゃ」

真堂の思わぬ一面を見たことで、神崎は少し戸惑った。財布をチェックした後、神崎は真堂の条件に乗り、例のラーメン屋に向かうのであった。

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