「―――義理の母親」
「ぶーっ!」
羞恥心の欠片さえも感じさせない神崎の答えに、真堂は口に含んだラムネを一斉に吹き出した。
「えぇー! 母親! しかも義理!」
「そだよ。正確には母親になる前に童貞喪失したんだけどね」
「え? どうゆうこと?」
神崎の言葉になにか引っかかりを感じた真堂は、話しを進めようとする。
「そうだな……、母親になる前はいつも俺の世話をしてくれた頼れる姉ちゃんだったんだけどさ、いざ交際関係になって抱かされてみると、あの人こう言ったんだ「あなたのお父さん私にちょうだい……」ってね」
「え……? それって……」
神崎が寂し気な笑みを浮かべながら話を進めた。
「家の親父さあ……、機会工学と生物学の天才でさあ……、おまけに人望も厚くて……それにあの人が惚れて……、俺に近づいて……ついには結婚ってね。結局あの人は俺のことを親父と結ばれる為の『キーマン』としか見てなかったんだ」
「そんな……」
「まっ、そんな二人の新婚生活を邪魔しないように、最近になってここに引っ越して『一人暮らし』始めて転校してきたってわけ」
「………」
真堂はあまりにも気の毒過ぎる話しに返す言葉すら出てこず、ただ黙って話を聞くしかできなかった。
「なーに、別に憎んでいる訳じゃねえさ、俺はただ自由が欲しかっただけなんだから」
「そうか……」
話を聞いてからだと真堂は似たような人物を知っていた。その人物とは『崇妻獅郎』だった。神崎と同じように獅郎も自分の親に劣等感を感じていて、そして何かが歪んだ為に家を出て一人暮らしをしている(※獅郎の場合親戚に預けられている)。つまりは拒絶しているも同然だった。
「大変……だったんだね……」
そんな神崎の話に、真堂がさっきまで感じてた不信感がきれいさっぱり消え去っていた。いわゆる同情である。
「なに? 同情してくれてんの? よしてくれよ。そんな大した問題じゃないし、ちょうど一人暮らしにも慣れみようかなって思っていてさ」
神崎は真堂の行為を棒に振って応じた。
(本当にそうなのだろうか……?)