一見平気そうに見える神崎だが、内心はどうなっているのか気になってしょうがなかった真堂は、心の中で個人的な疑問を抱きながら呟いた。
「まあそんなところだ。以上返答終わり! 次は俺が質問する番だ。何を質問するか分かるよね」
「え? ああ……うん」
神崎はこれ以上話して空気が重くなる前に早めに話を切り上げて、次は真堂の父親についての質問をする。
「そうだな……俺の父さんは本を書く仕事をしていたんだ」
「小説家?」
「そうだね。母さんと結婚する前は色々な国に旅をしていたって聞くけど……、え〜と……」
「『バックパッカー』ってやつ」
「そうそれ! その旅の経験を活かして『小説』を書いていたって母さんが言ってたけど」
「なに? 親父さんの仕事のことはあんまり知らないわけ?」
「うん、生きていた頃は部屋に缶詰(閉じこもり)になってたり、出張が多くてあんまり構ってもらえなかったから……」
「ふ〜ん」
真堂は父・『真堂創一』について仕事が原因で物心ついた頃からあまり構ってもらえなかったせいか、父親の記憶が少なく、今頃になって考えるとただ切なくなるだけであった。
「ふふ……、俺ってば偉そうに父親の思い出語る資格ってあるのかなぁ……」
(おいおい、自分で自滅しちゃったよ……)
真堂のいる場所から夕陽は照らされなかった。なぜなら駄菓子屋の後ろに夕陽の光りが差し込んでおり、二人から大きな影で隠れている為、真堂の周囲から出ている負のオーラをいっそう濃くさせるだけだった。
「お、おい……あっそうだ作品、作品とかないの『小説家』やってたんだったらさ?」
「ん? 作品か……そういえば何札か出してたな」
「えっ! なになに、どういう作品」
相手から話させるはずが逆に話しのフォローに入る神崎は、話しを少しでも進めさせる為に自ら真堂の父親の作品に好奇心を湧かす。
「確か……『傲慢な掌(ごうまんなてのひら)』っていうタイトルの作品だったと思うけど」
「………」
「ん? どうしたの?」
「そのタイトルってまさか原作者って……真堂創一!」
「え? 知ってるの!」
「知ってるも何も……決行有名だった作品だよ! 米ソを中心とする東西陣営に分かれた世界(冷戦)で、ソ連側についた元大日本帝国軍の捕虜がソ連崩壊まで活躍する小説だろ」
「ああ……詳しくは知らないけど、そんな内容だったような……」
神崎は創一の作品の内容を見事に言い当てながら、自ら強制的に湧かしていた好奇心も小説の原作者が真堂の父だと知ったとたん。自動的にずば抜けた好奇心を湧かした。
「親父から借りて見てみるとあれがスゲー面白くってさ、でも一番残念だったのは物語がまだ続いてるのに、途中で打ち切りになっちゃったことなんだよな〜」
「へー、意外と難しい本とか読むことあるんだ」
「まあな、それにしてもどっかで聞いたことある名前だと思ったら、まさかあの真堂創一の息子がこんな目の前にいたなんて……」
「まさか神崎が父さんのファンだったとは―――ん? なにやってんの?」
神崎が真堂の父の作品を熱く語った後になにやら膝をじべたに着け、そのまま正座の体制になり手を下に着けて頭を下げる。
その体制は―――