そして今に至る。
2004年4月8日、神奈川。片瀬。真堂李玖・12歳。
―――最近は心の傷が癒える一途をたどり、普通に空を見上げる事が多く、屋上の金網によりかかりながら空を見上げる真堂。
「………」
未だに眠そうな顔で空を見つめる。
昼休みに食べるはずの弁当にも手を付けず、ただ空を見上げながらあの事件の事を思い起こしていた。
「どうした李玖……飯食わないのか?」
涼しげな表情ながらも心配して、横から問いかける少年がいる。それは真堂の幼なじみで唯一の理解者でもある崇妻獅郎(あがつましろう)だった。
今の状況から考えて見れば、まず昼休みには弁当と一緒に食べる友達。
真堂は一人だけ思い詰めていたせいか、一緒に弁当を食べるはずの獅郎に気付かずにいた。
「早くしないと、食う時間なくなっちまうぞ」
獅郎がいたことに気付いた真堂は、昼休みに一緒に弁当を食べる約束を忘れていた事に気がつく。
「……あ、ごめん獅郎……! 居たの忘れてた」
口が滑ったのかその台詞を聞いて獅郎は―――
「俺……、そんなに影薄いのか?」
―――と、少し落ち込んだ様子で真堂に返した。
「……なんていうか―――ちょっと考え事を、ね」
頭を掻きながら間を開けた言い訳する真堂。そのようすを見た獅郎は次のように問う。
「お前、まだあの事件の事引きずってんのか?」
さすがに長い付き合いのため、獅郎はあの事件(911)とその他もろもろの事は知り尽くしていた。
さっきは空を見上げていたので、真堂があの事件の事を考えていたのを悟ったのである。
「う……うん、未だにあの事件の事が忘れられなくってさ」
「立ち直れないってか」
「どうすれば……良いかな?」
この三年間どうにか忘れようとするが、それでもあの事件の情景が真堂の目に焼き付いて離れないでいる。
「そうだなぁ、俺から言える事は―――お前が悩んでいる間に、昼飯食う時間が五分もねえって事だな」
「―――ほほう……へ!」
そのセリフを聞いた真堂はとっさに自分の腕時計を見て「っあ!」と、驚いた表情で授業まであと五分しかないことがわかった。
「もう弁当食べる時間ないじゃん!」
慌て弁当をかたづけ、真堂はさっきまで悩んでいたのが、嘘みたいに元気を取り戻した。
かたづけが終わった所で真堂は急いで自分の教室に向かった。