「はい、どな―――」
「ああ、李っちゃんただいま」
「姉さん!」
ドア向こうに待っていたのは、大学卒業と同時に出稼ぎでジャーナリストの仕事をする為に飛べえ(アメリカ行った)し、一年間音信不通で真堂の兄・真堂陽一が亡くなったのことを聞き付け、今日は久しぶりに実家に帰ってきた姉・真堂智美だった。
「なにしに帰ってきたの!」
「「なにしに」って……? ようちゃんが死んでから、あんたが家に一人で暮らしているって聞いたから帰ってきたのよ。ああ、ついでに陽ちゃんの『墓参り』済ませていったから」
「まともに葬式こなかったクセに、ついでで済ませるな!」
智美のいい加減な返答に張り上げた声で真堂は激怒した。
「これなった分、墓参りで埋め合わせしたんじゃない。それとも何? 帰ってきたらなにかまずいことでもあんの?」
「うっ! いや……その……」
「なによ?」
(今だからこそやばいのに……)
「真堂さんフィルターの掃除終わりました……ん?」
「しまった!」
「ちょっ! 誰よこのいい男!」
真堂が食卓にいなかった為、名無しは玄関から声が聞こえてきたところ行くと、智美の視線に止まり、陽一のお古を着こなしているのを目撃し、ただのお手伝いさんじゃないことが分かる。
「これ、陽ちゃんのワイシャツよねぇ……!」
「あぁ……その……」
「えっ? えっ?」
智美は名無しが着ているTシャツを掴み、改めて陽一のお古だという確認をとった後、名無しは状況を理解できずに戸惑っていた。
「ああ、名無しさん。この人は家の姉です」
「え……ああ、どうも」
「弟がいつもお世話になってます」
「いいえ、実際にお世話になっているのはこっちなんですけどね」
「そうですか―――じゃないわよ! 誰なのよこの人! どうして陽ちゃんのお古なんて着てるのよ!」
(やっぱりこうなったか……)
見事な智美のノリツッコミでほんの少しの間に、和んでいた空気が一変し、名無しはどこのだれなのかを真堂に要求する。
「……とりあえず姉さん。客間に来て……」
「ちょっ、なによ?」
「あ……あの」
「名無しさんは冷蔵庫におやつあるからそれ食べて休んでてください」
真堂は智美に腕を掴んで客間えと場所を移して、時刻は3時をさしていたので名無しに食卓で休むように言いつけた。