小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「こらっ! 大人しくしろ」

「むぐ……! ムグムグ! む―!」

「!」

客間を出た二人の部下が突然、口と両腕両足を縛られた男を二人がかりで連れ込み、ディオラウスとアシュレイに見せつけた。

「どういうおつもりですか……」

それを見たディオラウスが驚くのも無理はなかった。なぜならさっきいってた信頼できる情報筋と言うのは、今この場で拘束されているこの男によって導かれたから、今の確証を得られたからなのである。いわゆる『内通者』である。

「どういうつもりもなにも、こっちにも裏切り者がいたってことですよ。なあ謙吾……」

「むぐー!」

拘束されている男の名は木村謙吾。若い歳で矢島組の懐刀という異名を持ち、現在は組の中のナンバー3の地位でいる。
そんな時、ディオラウスの組織に内通していることがバレて、今はこうやって拘束され、組長(哲斎)の怒りを買ったのである。

「おい、外してやれ」

「はっ」

「むぐむぐ……―――プハァッ、く、組長……」

苦笑いしながら謙吾は、今この場で言葉を発した。

「見損なったぞ謙吾……」

「そ、そんな……俺は組の為に……」

謙吾の言い訳にさらに呆れる哲斎。

「ハァー……」

「俺はただ……組から障害を取り除きたかったんだよ」

「組の障害?」

「そ、そうなんすよ。俺は組の未来の為にやったんだよ! 俺達の組はこんな時代でいつまでも止まってる玉じゃねえ、あんな老いぼれに動かされたような組織じゃ―――」

パンッ

「ヒギャアアアァァァー!」

「老いぼれ」という台詞の一部が出てきた事とで、哲斎はすぐに胸元から出した拳銃で謙吾の肩を撃ち抜いた。

「ギャアギャアわめくな謙吾……! お前には『あの方』に会わせるのは、まだ早かったみたいだな……。腕はいいがオメエの場合、あんまり自分の肉体の痛みにゃ慣れちゃいないのが欠点だ。重い責任背負わせて成長するのかと信じてきたのによ……。いままでそれに期待しきた自分が、本っ当うに嫌になっちまうな!」

「………」

一方。拳銃が出ても慌てずかつ微動だにしなかったディオラウスは、謙吾のやられ様にみじめに思い始めたのか、明らかに人を見下した目で見ている事に気付いた哲斎は、次のように答える。

「これが『あんたら』のやり方か……」

「そうですねえ……、よければ引き渡してもらえませんか―――」

 茶化すかのようにディオラウスは、可愛らしく満面な笑みを浮かべながら哲斎に要求する。

「断る!」

まっすぐに断言する哲斎。

「そうですか……おじい様から聞いた話しだと、かつてこの国が帝国主義の時代の戦争で、友を亡くしたのを理由に軍を退役。我々の組織に入り、組織が計画していた第二次世界大戦を引き起こした一人でもあり、終戦後ユーラシア大陸の南東部に共産園を広がせた。組織の幹部の一人で『才気の謀略家』。たしか名前はしん―――」

ガチャッ×9

「あらら?」

「戯言はそのくらいでいいだろう。それに―――人様バカにしたからには、それなりの覚悟があんだろうな―――クソガキども!」

ディオラウスがある人物の名を口にしようとしたとたん。哲斎率いる8人部下が一斉に胸元から拳銃を取り出し、みな銃口をディオラウスに向けさせ黙らせた。哲斎がついに本性を表したのだ。

「これはこれは、ごたいそうなことで」

「殺しはしない。「組織の関係者は見つけしだい生け取りにし、情報を吐かせろ」そう『あの方』から言われてる……」

「おー、怖い怖い」

ディオラウスはずいぶん砕けた態度で振る舞った。

「てめぇ……、いくら生け取りにするからって、それ以上なめた態度取れると思うな! 日本のヤクザをナメるな!」

「そんなこと言われてもなあ……」

 「嬢ちゃんよう……。なんならここにいる若い奴ら全員で、その色白の肌を傷物にしたっていいんだぜ。てめえらのやれることといやあ、たかが知れてんだよ!」

 「ハァー……しょうがない。全員殺しちゃおっかアシュレイ」

「なっ!」

軽々しく放ったその言葉が、室内にいるディオラウスとアシュレイの二人以外の人間を驚愕させた。あまりにも無謀に見える余裕が、未知の驚異という疑惑を孕んだのだ。

「よろしいので?」

「うん。もう面倒くさくなっちゃった」

真意を確かめる為にアシュレイは主人に問うた。

「クッ……ブハハハ! お嬢ちゃん。滅多な事言うもんじゃねえよ。この状況じゃ勝ち目なんてねえんだからよう」

「それがそうもいかないんだな〜これが、アシュレイ」

「はっ」

ディオラウスが命令してくだしたことで、行動に移すアシュレイに哲斎とその部下に銃口が向けられ、全員が引き金を引こうとしたその瞬間―――

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