小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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夕方、放課後。
下校時刻。一人で帰る仕度をする真堂。教室の窓の向こうに広がるグラウンド場から、陸上部の活動が見える。

「部活か……俺も入ろうかな……」

この時間だと普通の中学生は部活に行っているが、真堂の場合は帰宅部である。

「石川さんに……明日お礼しないとなあ……」

夕陽に照らされた教室に一人帰り仕度をしながら、真堂は石川に何の恩返しをするのかを考える。

「それにしても……この状況。夕陽に照らされる教室。放課後で一人帰る仕度をしている俺……ちょっと青春感じちゃ―――」

今の状況を独りで真堂は語りだした瞬間―――スパーン! と、勢いよく教室の戸を開ける音に真堂は、台詞を言う途中で思わず絶句してしまった。

「―――う……な? 」

「はあぁ〜、こんちきしょ〜」

鬱憤(うっぷん)混じりの吐息を漏らし、教室に入って来たのは緑色のジャージを着た女性。少しキツメな着衣な為に、知らずに豊満な胸が強調され、その上しなやかで優美な顔立ちと曲線をしていた。
そんな独特の美しさを持ちながらも、どこか男勝りな印象をしているのは、真堂の担任の教師で陸上部の顧問である杉山薫であった。

「うわっ! か、薫先生?」

「下の名前で呼ぶな〜」

教室の戸を開けた程度で全ての体力を使ったように、大きくため息を吐きながら体の周りに負のオーラを漂わせる。あまりの杉山の落ち込みように驚いた真堂。どうやら彼女は下の名前で呼ばれるのが嫌うらしい。

「うぅ……ゲホッ! ゲホッ!」

疲労で咳き込むと同じく機嫌が悪い杉山は、机の上に座り小さなため息を吐いた。

「一体どうしたっていうんですか?」

「ん? いや……そのなんだ……ちょっとした寝不足だ、寝不足……ゲフッ!」

首を傾げながら睡眠不足だと杉山は答えるが、真堂はその言葉に少し違和感を覚えた。

「そうですか? なんか咳き込んでいますけど……具合でも悪いんじゃないですか?」

重く咳き込んだところを見ると、あまり体調が優れない事を悟る真堂。見た目からして今にも倒れそうな杉山に、確認を取ろうとするが―――

「あぁ……そんな事より真堂、なんでおまえだけ帰ってないんだ。確か部活は入ってなかったよな?」

「いやあ……まだなに部に入るのか迷ってまして」

余計なお節介を焼かれたくなかった為、プライドが高い杉山は真堂の気遣いを拒否した。

「そうか……真堂―――」

「はい?」

真剣な眼差しで杉山は腕を組み、真堂を見つめながら次のように述べた。

「―――おまえ人の心配よりも自分の心配したらどうだ」

「え? 俺……なんかしましたっけ?」

「そうじゃない。ただ……おまえが三年前のあの事件の被害者って聞いたからよ……」

杉山の質問に真堂は驚きを隠せ無かった。なぜなら彼は小学校を卒業して以来、中学に入ってから自分がある事情で911の被害者だと、誰にも知られないようにしてきたからであったからだ。

「なんで……その事を……!」

「いや……、おまえが通ってた小学校に友人が居て、そいつにちょっとおまえの事を聞いてな……」

「………」

911の事を知られたことで真堂は視線を下に向け、口を堅く閉ざした。そしてそのまま黙って杉山の話しを聞く。

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