小説『ラグナロクゼロ(シーズン1〜2)』
作者:デニス()

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「……私にとっては、あまり詮索するつもりはないだ。友人の話しだとあの事件が原因で、かなりの仕打ちを受けたと聞いたからな」

真堂のトラウマは911だけではなく3年前。『あの事件』の後で日本に帰国してから起きた出来事とは何なのか、杉山は深入りはしていないが為に、あまり詳しくは知らないらしい。

「………」

真堂は沈黙を続ける。

「無駄な時間食ったな。その……、話したくなかったらいいんだ。野暮なこと聞いてすまかった」

「………」

自分だけ一方的に話した事に謝罪する。だがあまり不器用な言い方しかできない杉山は、教師として自分の生徒が抱える問題を少しでも取り除きたいはずなのに、逆に真堂を困らせてしまった。その為、黙り続ける真堂に対し不安を感じた杉山は、少々間を開けた喋り方をする。

「……いいんです……過ぎたことですから……」

いずれ知られるのは解っていても、真堂は精神的な脱力感を覚えた。杉山の視線を避けるかのように目を細めてうつむき、徐々に口数を減らす。

「そうか……、強いな真堂……」

言葉足らずで気休めな言い方しかできない杉山。これ以上、言葉を交せば不穏な空気が流れ込むだけで、他にいい方法は浮かばれずにいた。

「それに……」

不穏な空気のせいで、長く息が詰まるのを気にしたのか、真堂は窓を開けて教室内に新鮮な空気を送る。

「それになんだ!」

不意に言った真堂の台詞に、杉山はこの状況に『九死に一生を得た』かのように食い付いく。
そして彼は次のように述べる。

「後ろで待たしている獅郎にも悪いですし」

「……え……?」

真堂が言った事で、杉山は背後から突き刺さるような視線が送られているのに気づく。

「―――うおっ!」

「………」

真堂が見たその杉山の振り向き様は、まるで尾行されている事に気付いた女性のようだった。

「あが……つま……」

「なにやってんだよ……」

獅郎の冷たい視線に少し動揺している杉山。

「なにって、相談事だよ……」

「ふ〜ん」

さっきまで何も無かったかのように、獅郎は妙に落ち着いて話す。

「っていうか、おまえ……いつからそこにいた」

先に帰ったと思われた獅郎が、なぜまだ学校に居るのか杉山は問う。

「いつからって? ……あんたが教室に入って来た時からずっとだけど」

「えっ! じゃあさっき話していた事も、か?」

あんた呼ばわりする獅郎に構わず、さっきから真堂と話していた事が、全部見られていたことに驚く杉山。

「おう……なあ」

「あ?」

さっきから挑戦的な態度をとる獅郎に、杉山は少しずつ機嫌が悪くなり眉間にシワを寄せながら話を聞く。

「さっきから聞いていると、大の教師が相談している生徒の心の傷広げてどうするんだよ」

「―――うっ!」

(獅郎は直球だな〜)

獅郎の正論が心臓に突き刺ささった感覚を覚えた杉山。
一方二人の会話の様子を見ているだけの真堂は、獅郎の直球な言葉に疑問を少し呟いた。

「あんたあれだろ。人のカサブタ絶対はがすタイプだろ!」

「そ……れは……う、うるせーおまえには関係ないだろ!」

(あたっているんだ……)

呆れた表情でさらに呟く真堂。

「うぅ……おまえ、さっきから聞いてると、「あんたあんた」って、先生と呼べ先生と!」

真堂が居るにも関わらず、当然の反論をする杉山は獅郎との口論を続ける。

「俺が言いたいのはよ、人に聞かれたくない話しをされてるほど李玖はそんなに心は広かねえって事だ」

「なっ……!」

「し、獅郎!」

獅郎の直球の発言に杉山思わず絶句してしまった。

そのことで真堂は、これ以上獅郎がよけいなこと言わないように口を挟んだ

「し、真堂……?」

「いや……あの、か、帰ります!」

「おおい!」

言い訳のしようがないと判断した真堂は、とっさに獅郎の腕を掴み、全速力で教室から出ていった。

「早!」

あの口論の後、ニ人が急に帰った為か後味の悪い静けさを孕む。教室内はまだ夕陽が射していて、喋る間はそんなに時間は一時間もも起っていなかった。

「行ったか……、はあ〜、あたしってどうしてこう……」

杉山は自分のうつ向きそうな頭を支えながら、あまり慣れない事をしたせいで、慰めるつもりが逆に真堂を困らせてしまった事を悔やみにに悔やみ、またむせた。

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