ゴスッ
「………」
「……ん? ごす?」
まるで時間が止まったかのように、獅郎を殴りかかろうとした矢島が急に動きが止まったのである。
「きょうけんぅ……て、てんめえぇ……」
閉ざしていた口が開き始め、矢島は大量の汗が顔中から流れ込み、獅郎の袖を掴んだまま身を崩していった。ある方法で秒殺されたのである。
「え? え? 一体なにが?」
一瞬なにが起きたのかが理解できずに、真堂は二人のいる所に目を細めてよくみた。
「ん〜……あっ! 獅郎まさか……」
「なんだなんだ、どうしたんだよ」
同じくなにが起きたのかわからず真堂に問う神崎。
「……あれ」
「んん?」
真堂が指差す方向には、矢島がなにかのショックで悶える姿が神崎には確認できた。
「あ……まさか……」
「うん……そう……」
矢島の今の体制から気付いたことをかきっかけに、神崎は全てを悟った。
そうあの時、獅郎は矢島になにをしたのかそれは―――三つ数え終えとっさに袖を掴まれた時に、獅郎も同じくとっさに片膝(かたひざ)を矢島の股間めがけて蹴り上げた。つまりは―――『金蹴り(またぐらに打ち込む打撃術)』をかまされたのである。
「我ぇ……プライドってもんはねぇのかぁ……、てめえにはぁ……!」
その衝撃もあってのことか、矢島は声を振り絞りながらも、獅郎えの執念から下半身の痛みを少しだけ弱まらせていた。
「プライド……? 最初っからねえよ。そんなもん」
「な……にぃ、じゃあなんで……」
獅郎はそう言いながら、最初っから眼中になかったような口ぶりに、矢島は次のように問いかけた。
「ん〜……、めんどくさかったからかな〜マジで」
「な!」
獅郎のそのお決まりの言葉に矢島はとてつもない心的ショックを受け、そのまま口から泡を出して地面に顔を着け失神した。
「洵……」
「ん?」
「教室……戻ろうか」
「うん、戻ろう」
あまりにも馬鹿ばかしい決着に、しらけた真堂と神崎は呆れながら教室えと戻って行くのであった。
それと同時に、さっきまで集まっていた人ざかりも解散し、その場で立ち尽くしてた獅郎は教室に戻った。一方失神した矢島は杉山が保健室に背負いながら連れて行かれ、しばらくした後に警察に引き渡し、なんだかんだいいながらこのしょうもない問題は解決した。