バンッ
突然矢島は真堂に銃口を向け、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく射ってきた。
情けなく無慈悲にも感じられるその撃たれた『鉛の弾丸』は、バレルを通り抜けて真堂の眉間(みけん)に向かおうとしているそんな時だった。
(弾が……みえる!)
予想を超えた矢島の行動によって、真堂は「あ、ヤバい俺死んだ」と、心の中で確信した瞬間に、急に視覚が淡い黄色に染まった。そのことで時間がゆっくり流れるかのように、バレルを通り抜けた弾丸がスローモーションではっきりと見え始めた。
今起こってるその現象は、真堂が『盲目の悪魔』と戦った時に目覚めた謎の能力であった。
(またこの能力か……)
当然その能力にまた目覚めたことで、真堂の瞳は黄昏の如く輝きだし、今の現状でこの能力は、自ら命の危機にひんした時に発動することができるらしい、少なくとも真堂はそう理解した。
(この能力また助けられるとは……)
スローモーションの常態で、真堂は自らの一時的な無事に安堵するが、このままゆっくりと迫りくる矢島が射った弾丸をただ見ているわけにもいかず、また気まぐれに能力が切れる前に、あの時のように避けようとするが、ゆっくりと時間が流れている状態の為に、自分もゆっくり動いてしまうので、かなりぎこちない気持ちになり、みるみると眉間に迫ってくる弾丸に慌てながら避けようとする。
(うぅ……かなり動きにくい、やっぱあの時みたいに都合良くいかないか……ん―――ヤバい!)
ついに弾丸は真堂の顔面に数センチほどに達し、なんとか必死に回避に専念しようとする。
(あと一センチ……数ぅミぃリぃ……―――どわぁ!)
文字通り危機一髪とはまさにこういう事。あと数ミリの距離で顔半分に障害が残っているか風穴が空いていたかもしれないところ、精一杯力を絞った結果なんとか頬をか擦れただけですみ、他はなんの障害はなかった。
(チッ避けたか……、ん……? なんかいま目が光ってたような……まいっか)
矢島にとってはたった数秒の事でも、真堂にとっては能力込みで数十分の現実でもあった。
「まっ、俺に関わってると、こういうことになるから気を付けろや……じゃな―――」
「ちょっと待てコラァァァー!」
「んだよ?」
人に平気で拳銃をぶっぱなした後の矢島の軽々しい態度に、腹を立てた真堂は謎の能力という名の味方をつけたことで、もう拳銃も何も怖くはない状態になった。
「撃つか! 普通撃つか! 何の罪も無いこの俺を!」
「な〜に怒ってんだコラ? チャカ(拳銃)ぶっぱなしただけでよ」
「それが問題なんだろうが!」
「え〜」
怒りが収まらない真堂に対して、さっきまでなにもなかったような振る舞いをする矢島。
「「え〜」じゃないよ! だいたいこんな所でなにやってんだよ!」
「んまあ、ちょっとケジメをつけにな……」
「けじめ?」
真堂は矢島が言うその三文字のキーワードに疑問を抱く。
「そうだ……んじゃっ、俺はもう行くぜ〜」
「まてよ……!」
「ん?」
「それってさ……組長(矢島の父)の事件とか―――」
「おまえには関係ない! いや……まてよ。そうだおまえなら見張り役になるかもな」
「は?」
突然なにを言い出すのかと思えば、また新たな疑問が増えた。その事で真堂は腕を組ながら考え始めた。
「みはり……やく?」
「おう、そうだちょっとついて来い」
「え、ええー?」
矢島が手招くように真堂は拳銃を持っている件もあり、違う意味での見張り役になるだろうと素直についていった。